タブー視されがちな“障害者と性”に真正面から向き合う女性がいる。一般社団法人「輝き製作所」の代表で障害者専門風俗嬢の小西理恵さんだ。
障害者専門風俗嬢とは、読んで字のごとく男性障害者を相手に性サービスを提供する女性のこと。18歳で性風俗の世界に飛び込み、祖母の介護を経て辿り着いた現在地。「性を大々的に発信する私に嫌悪感を抱き、離れていった人もたくさんいる」なかで、なぜこの仕事に取り組み続けるのか。その理由を聞いた。
重度の障害があろうと性欲はある
――まず初めに、’20年に立ち上げた「輝き製作所」の事業内容を教えてください。
小西:“障害者と性”に関するカウンセリングや講演を開催しています。これまでサイトの問い合わせ欄には、障害者の方はもちろん、その家族や障害者支援をする人などから多数連絡をいただいてます。その数は計826人。SNSなど他媒体からの連絡を含めると1000人は超えているはず。また別事業で、個人で風営法の届け出をして、障害者専門風俗店として性サービスを提供しています。
――もともと小西さんは18歳のとき「彼氏との同棲資金を稼ぐため」に初めて性風俗店で働いたそうですね。
小西:ええ、たった数万円のお金が欲しくて始めました。何もわからなかったから業界に対する抵抗もなかったんですよね。彼氏と別れて一度はやめたけど、母親代わりだった祖母を養うためにまた働き始めました。
――祖母が働かなくとも、小西さんの収入だけで平穏な暮らしが続けばいいと思っていた、と。
小西:そう思っていたときに祖母がパーキンソン病を発症してしまい、施設に入ることになりました。それを機に介護について考えるようになり、30代になってから福祉の資格を取ろうと学校に通うことにしたんです。学校の友達に誘われて、障害者の方が暮らすグループホームへ見学に行きました。そこで「何も楽しみがない」という障害者男性と出会ったんですね。そのとき率直に“性の楽しみが選択肢にあってもいいのでは?”と思って、性事情を調べてみました。
――調べてみてどうでしたか?
小西:障害者専門風俗店があることを知って、まずは自分が実際に働いて現場を知ろうと思ったんです。いざ働いてみると、サービスの予約が取れるのは“何時にどこで待ち合わせ”と最低限のやりとりができる人たちだってことに気づいたんですよね。それができない重度の知的障害者やパソコンが使えないような身体障害者には難しい。一部の障害者しか性サービスを受けられないのはおかしい。そう思ったことが「輝き製作所」を立ち上げるきっかけになったんです。
母が息子の射精を介助する。それが“普通”になってほしくない
――“性を仕事にする”うえで初めて知ったことはありますか?
小西:グループホームの見学で出会った障害者支援をする人たちから衝撃的な話を聞きました。“障害者の男性が実の母親にペニスを挿入して妊娠させた”という。当然ですが障害者にも性欲はあります。お母様からしたら誰にも相談できず“自分が何とかしなくちゃ”という状況だったんでしょう。こんな思いをしている人がまだどこかにいるなら、私が力になりたい。一般の風俗店では性サービスを断られてしまうケースも少なくないですから。
――「ホワイトハンズ」代表・坂爪真吾さんの著書『セックスと障害者』には“身体障がいや知的・発達障がいのある子どもの母親が、周りの誰にも相談できずに、やむをえず息子の自慰行為を手伝っているという例は、昔から少なからずあります”と書かれていました。
小西:男性の支援者さんが障害者の前でマスターベーションを実践して教えたり、自分の手を使って射精介助したりという話もよく聞きます。
――同様のことが親子間でも?
小西:親子で性関係を持つことを“普通”と思っている障害者もいます。また親に対して罪悪感を持ちながらも“自分は他人の異性とはできないし”と状況を受け入れている人もいる。理性と欲求のせめぎ合いなんでしょう。ただ、“仕方がない”で済ませていい話ではありません。
――そこには障害者とその家族特有の母子密着の関係が存在するのでしょうか。
小西:やっぱりお母さまからしたら息子はかわいい存在。“自分がいなきゃ生きてこられなかった”という認識のままだと、個としてお互いに自立できないんです。「離れないといけないと思っているけど離れられない」という声もよく聞きます。