ライフ

6歳のときに別れた息子と、12年ぶりに再会するおっさん。愚かでも、人は生きていかなければならない

おっさん連中で田原さんをガードすることになったが……

ヤンキー座りをする若者ただ、田原さんの日ごろの動きを見ていると本当に過去の行いを悔いていて、むかしの家族に会いたいと切望していた。それがわかるから会うべきだと思った。 だから、高橋の心ない言葉にブルってしまってはもったいないし、殴られるくらい覚悟して行くべきなのだ。けれども田原さんがあまりにブルっているので、じゃあいきなり殴り合いになっても大丈夫なように、おっさん仲間でも屈強なタイプの連中を連れて会いに行こうとなったのだ。 こうして僕を含む3人の屈強なおっさんが集められたのだけど、これだけ屈強な男を集めたくせに田原さんが借りてきたレンタカーは信じられないレベルのコンパクトカーで、本当にギュウギュウになりながら北関東へと向かったのだ。もうちょっとでかい車を借りて来いよ。そういうとこだぞ。 「12年ぶりなんですから、ちゃんとこれまでのことを謝って、プレゼントを渡すべきです。ちゃんと息子さんが喜ぶようなものを準備してきてください」 僕には心配ごとがあった。上記のセリフでプレゼントを買ってくるように言ったのだけど、田原さんは少し天然なところがある。明らかにおかしいプレゼントを買ってくる可能性があるのだ。 あまりにも心配なので、レンタカーに乗り込むときにチラッと田原さんがもってきたビニール袋をみたのだけど、なんか「アンパンマンのギター」が見えた。本当に恐ろしい。 この「アンパンマンのギター」には3点の恐ろしい点がある。まず、包みがおもちゃ屋のビニールでありプレゼント包装すらされていないとう点だ。 そして2点目が、12年の年月を全く考慮していないという点だ。別れたときが6歳なので、息子は18歳になっている。自分でネットを駆使し父親を捜しあてるまでになっている。そんなほぼ大人の息子に「アンパンマンギター」はない。おそらく、田原さんのなかで息子は息子のままで、12年という時間の経過を意識できないのだと思う。でもそれでもこれはない。 そして、3点目がもっとも恐ろしいのだけど、その「アンパンマンギター」、チラリとみたところ対象年齢が3歳くらいっぽい。そうだそうだ。知人の子どもを見ていても、アンパンマンに夢中になる年齢ってのは意外に短く、もっとも夢中になるのが3歳前後だ。 つまり、別れた時点の6歳でも「アンパンマンギター」は幼すぎる。別れてしまって12年という年月を意識できなくなっていたという言い訳ができない。それだけ子どもに興味がなく、ギャンブルに夢中だったという点で罪深い。

アンパンマンギターを抱えて、いよいよ約束の場所へ

まあ、実際に待ち合わせしている場所は北関東の都市のショッピングモールなので、そこで12年経った息子の姿を見ればさすがに「アンパンマンギター」はない。と気づくだろう。そこですぐにでも何らかの年相応のプレゼントを買わせればいい。 いよいよ、レンタカーは目的の都市へと降り立った。待ち合わせ場所のショッピングモールもインターチェンジからすぐの場所にあった。待ち合わせ場所へと向かう。 待ち合わせ場所はショッピングモールのフードコートだった。僕らはものすごく早朝から駆り出されていたので、まだ昼前のその場所は混雑もなく、地元中学生が数組たむろしているだけだった。 「えっとさ、たしか、給水機が4つあって、その『B』ってついた給水機の近くのテーブルに座っているって言ってたかな」 問題の給水機はすぐに見つかった。ただ、その周囲に人はいなかった。 「もうすぐ約束の時間なのにいないですね」 屈強なおっさん仲間の一人が言った。 「もしかしたら急に会うのが怖くなったとか会いたくなくなったとかかもしれませんね」 もう一人の屈強仲間が言った。 「そうならそうで仕方がない」 田原さんは少し寂しそうな表情を見せたのを見逃さなかった。 その瞬間だった。 フードコートの向こうの入口からバリバリのヤンキーみたいなやつが入ってきた。あまり都心では見かけなくなったオールドタイプのヤンキーで、休日だというのに改造学生服みたいなものを着て、周囲を威嚇するみたいな髪形をした完全無欠のヤンキーだった。 「すごいヤンキーがいるぞ」 「すれ違うだけでオヤジ狩りに遭いそう」
次のページ
恐ろしいヤンキーと化していた息子
1
2
3
4
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
おすすめ記事