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6歳のときに別れた息子と、12年ぶりに再会するおっさん。愚かでも、人は生きていかなければならない

とんでもない行動に出た、父・田原

時間繋ぎでそう質問するとヤンキーは少し困った顔をした。そして、しばらく考え込んで答えた。 「ぶん殴ってやろうと思って」 どうぞ、どうぞ、思いっきりぶん殴ってやってください。彼にはそれが必要だ。ヤンキーは意外にも人懐っこい笑顔を見せるやつで、すぐに僕と打ち解けた。 けれども、田原さんが問題だった。 結局、田原さんはプレゼントを見つけられなかった。それどころか土壇場になって会う勇気が湧かないようで、一目見れただけでいい、帰ると言い出して他のメンバーを困らせた。 「ごめん、田原さんは勇気が出ないみたい。どうしようもない人間だ。僕が変わりに殴っておく。これはそのどうしようもない田原さんが最初に君に用意したプレゼントだ」 そう言って「アンパンマンギター」を渡すと、彼がフフッと笑顔を見せた。

愚かでも、前に進んでいく。それが人生だ

「そんな気がしていたわ」 彼はまた人懐っこい笑顔を見せて笑った。 帰りの車の中は行きより沈痛な雰囲気だった。 「やっぱかっこがつかないもんな。今度はSIMフリーのiPhoneもって会いに行くわ」 そう弁明する田原さんに誰も答えない。とりあえず、東京に戻ったら僕が息子の代わりに殴ってやろうと決意した。 「こんどは僕から会いに行きます。いつも父が行く店に僕が突然いるとかどうでしょう」 「いいサプライズだね」 僕は彼と連絡先を交換していた。彼からのメッセージが届く。添付された画像には、伝説のヤンキーが人懐っこい笑顔で「アンパンマンギター」を演奏するところが映っていた。 僕らおっさんの過去は、そんなにも綺麗なものではない。汚いものばかりだ。きっと多くの人を傷つけ、そして自分も傷ついてきたのだろう。僕らはあまりに愚かだ。それでも僕らは前に進んでいかねばならない。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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