ライフ

「謎の女」にまつわる都市伝説の真相を確かめに、池袋駅のトイレへ。そこで待ち受けていた恐ろしい結末は……

その女は、しっかりあの池袋のマナだった

「人が多いと見つけるの大変だからちょっと離れた場所にしようよ。そこから〇〇ホテルわかる? そこに移動してくれる?」 「ほら! 〇〇ホテル! 完全に都市伝説の女!」  あの日、夢中になった都市伝説の女がいる。それはなんだか興奮するものだったし、奇妙な感覚を覚えるものでもあった。 「〇〇ホテルの〇階のトイレ、その個室で待ってろだって。こっそり行くからって」  あまりに僕が言うとおりの展開になるものだから、遠山さんの声が震えはじめていた。 「ここまできたら真相を見届けるしかありません。個室に入ってください。ただし、誰が来ても絶対にドアを開けてはいけません。あの手この手で開けさせようとしてくるはずです。でも、開けたらだめです。発狂か消息不明です」  遠山さんをトイレの個室に待機させ、僕は少し離れた場所で遠巻きにトイレを見守る。いったい何が起こるのか。人智を超えた超常現象が起こるのか、この世のものではない何かを見てしまうのか。  結果として、何も起こらなかった。  言い伝えでは、ドアを開けさせようとする“なにか”がやってくるはずだったけど、そんな気配は一切なく、ただただ誰もこないトイレという存在がそこにあった。やはり都市伝説は都市伝説であって、そこまで不可解な出来事などこの世には存在しないのだ。ただ単にすっぽかす目的の女に遠山さんがひっかかった。それだけなのだ。

すっぽかしの後に待ち受けていた本当の恐怖

 単にすっぽかされただけでしたね、そう告げて帰ろうとしたその時だった。異変が起きた。  途方もない腹痛が僕の体に襲い掛かったのだ。これはもう、ウンコを我慢とかそういったレベルのお話ではなく、完全に漏れるやつ。1分1秒を争って漏れるやつ。というか、予告編みたいな液体がちょっと漏れている。完全にやばいやつだ。  一刻も早くトイレに駆け込まねばならない。幸いにも目の前にトイレがある。すぐに駆けこんだ。  このトイレは小さいトイレで、個室が1つしかない。当然そこは先客がいる。普通なら絶望するところだけど、この先客は遠山さんである。彼はエロい女待機をしているだけなので、事情を話せばすぐに出てくれるのだ。 「遠山さん、出てください。かなりの腹痛です。やばいんで出てください」  助かった。危うく漏らすところだった。ほっと胸と腹を撫でおろす。 「そんなこと言っても開けないぞ!そうやって知り合いの声色を出してドアを開けさせようっていうんだな」  とんでもないことになった。もうとっくに都市伝説のくだりは終わったと思ったのに、遠山さんの中では終わっていないのだ。 「違うんです。それはもう終わりました。なにも起きなかったんです。いまはただ本当にピンチなんです。開けてください!」 「し、信じないぞ!」 「開けてください!」  乱暴にドアを叩いても、遠山さんは開けようとしない。どんなに暴力的に叩いてピンチをアピールしても、遠山さんは信じない。 「都市伝説とかどうでもいいからあけてくだああああああああああああああああああああああああ」  こうして僕らの都市伝説は結末を迎えた。こちらが発狂しそうだったし、このまま消息不明になりたい気持ちになった。  あの日、僕らはインターネットに絶望を求め、アンダーグラウンドや都市伝説の類を読み漁った。池袋のマナはそんなときに読んだエピソードだった。ただ絶望したかった。そしてそれは時代を超えて、ただの絶望として現代に蘇ったのだった。  池袋駅のマナ、マッチングアプリでそんな相手とアポイントをとったら注意したほうがいいのかもしれない。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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