ライフ

サウナは恐ろしい。命を失う危険がある。しかし、それよりも尊いものを僕は既に失くしていたのだった

仇となったのは入念なブラックアウト対策だった

 ただ、悪いことに、2Lのペットボトルを捨てる場所がなかった。このサウナは、飲み干した飲料のペットボトルを捨てる箱が親切にも用意されているのだけど、それが小さかった。とてもじゃないが2Lのやつは入らない。かといってそのへんに捨てるわけにはいかないので持ち歩くしかなかった。  そうして迎えた外気浴。いつもの横になれる椅子をキープし、局部にタオルをかける。ただ2Lペットボトルの存在が本当に邪魔だった。手に持っていると、ブラックアウトした時にゴロンと転がってしまうだろうし、枕元に置いても邪魔で仕方がない。  結果、股間に挟み込んでその上からタオルをかける形になってしまった。まあ、これなら安定するし邪魔にもならない。これでなんとか外気浴を楽しむしかない。  しかしながら、案の定、その状態でブラックアウトしてしまった。けれども大丈夫、タオルをかけているから局部を丸出しにしているわけではないっておい!  そうか。だからか。  そうなんですよ。タオルの下に2Lのペットボトルがあるんです。めちゃくちゃタオルが膨らんでいるんです。なんていうか、めちゃくちゃ見栄をはってる人みたいになっているんです。さすがにこれを本物の局部と誤認する人はいないと思うんですけど、2Lのペットボトル忍ばせてそこまで見栄を張らなくても、って思う人が多いと思うんです。

そしてついぞ、真実に辿り着いたのだった

 その状態で2時間、気を失ってました。2時間、見栄を張ってました。  その時の記憶がおぼろげながらあるんです。ブラックアウトし、うっすらと意識が戻りつつある僕、その僕を覗き込むピンチケたち。ピンチケが言うんです。 「めちゃくちゃでかいんじゃん。キャンドル・ジュンが使うロウソクみてえだ」  これか!  そもそもキャンドル・ジュンさんはそこまで太いロウソクを使わないだろと思いながら作品を検索してみたら、けっこう使っていた。  本当にサウナは恐ろしい。気を失って2時間もめちゃくちゃ見栄を張る羽目になるし、よく分からないニックネームを付けられることになる。 「でもさあ、どちらかというと体型的にシェフのほうじゃね?」  ピンチケのそんな一言で、ニックネームが「シェフのほう」になる。もはや意味不明だ。これだからサウナは恐ろしいのだ。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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