更新日:2024年09月18日 14:46
仕事

「まさに老人天国」“やりたい放題の高齢者”だらけの職場で働くシングルファザーの叫び

ゴミ回収するのは“若手”の役割

 さらに理不尽なのは、ゴミ回収をするのは60歳前の男性に限られていることだ。70〜80代の男性15人は一切しない。15人は地下1階から15階までの廊下や階段、エレベーター、エントランス、駐車場を担当する。各階のトイレを女性7人が担当する。70~80代の15人の担当範囲は、吉井や女性よりはるかに狭い。吉井が、ごみ回収で館内を回るとそれぞれの動きがよく見える。 「ある者は廊下の隅でスマホをじっと眺めていたり、電話をしている時もある。誰もいない階段に座り、うたた寝をしている者もいる。所長が見回りに来ると、仕事中のふりをする。所長は15人には甘い。だから、こんなハードな職場で15人は平均10年勤務する。まさに老人天国。60歳以下は、数年で退職する」  15人は徒党を組み、手を抜きたい放題になる。仕切り役の78歳の井本に指導をする権限はないのだが、吉井らに説教をする。コロナで数日休み、出社した際に「休まれると、迷惑。あなたの仕事をフォローしないといけない。自分たちの担当が増え、時間がタイトになる」と叱る。吉井は、バカバカしくて言葉が出なかった。  ゴミ回収を終えると、大会議室に行く。長いテーブル40くらいと200を超える椅子に消毒スプレーをまき、ふいていく。この時、利用者は1人もいない。1人ですべてを隅々までふくのに、1時間半はかかる。所長は会議室横の喫煙室で15人のうちの4人程と煙草を吸い、20分も話し合い、盛り上がっている。

「病と仕事の両立」で、やりたい放題の高齢者

 15人のうち、3人はがんなどの手術をして半年程経ってから働きはじめた。担当する範囲は、15人の中でも最も狭い。通常、1人で1時間でできるものを3人で4時間半かけて清掃をする。時給は他と同額で、健常者扱いを受けている。  噂で聞く限りでは、所長が特別な配慮をしているようだ。役員たちから、「病と仕事を両立する人を雇い、仕事をさせるように」と言われているという。この清掃会社が「病と仕事の両立推進」で公的機関から賞を受けているためとも耳にする。あるいは、創業者の社長が有名な経済団体の理事になるために「病と仕事の両立」に取り組む会社とアピールしようとしているともささやかれる。  3人のうちリーダー格である72歳の紺野は食道を全摘した手術を終え、今年で6年が経った。医師から「もう、大丈夫でしょう」と言われたと喜ぶ。権限はないのだが、吉井に指示をしてくる。「おい、ここも頼むよ」と命令口調で言い、自分は大きな窓から外をじっと眺めているだけだ。1日の仕事量は、30人のパート社員の中で最も少ない。大学生の孫に小遣いを与えたく、働いているらしい。  吉井は徹底してサボる紺野を見ると「がんを完治したなら、働けよ」とキレそうになる。だが、1人を敵に回すと15人が徒党を組み、村八分にする。まさに老人天国なのだ。30人の残り15人のほとんどが、30~50代だ。黙々と働くが、2年以内に次々と辞めていく。70~80代を極端に優遇したあり方に不満を持つからだという。吉井は、「所長は過半数を超える70~80代の男たちを怒らせたら、組織が機能しないと判断しているのだと思う。所長の在籍期間は2年。その後、他の拠点に異動する。この間、穏便に組織が動けばいいと考えているはず」と話す。  解せないのは、所長が60歳以下のパート社員には「スピードを上げてほしい。70~80代の仕事の一部をしてあげてもらいたい」と言う時すらあることだ。吉井は、呆気にとられる。真逆を本来すべきではないのか。70~80代のパート社員が、60歳以下の人の一部をするようにしないといけない。だが、井本や紺野らが「仕事の量が多い」と愚痴をこぼしているという。 「身勝手で横暴な老人と仕事はもうしたくない。とはいえ、デッドラインである月60万円の収入をキープするためにはとりあえずは、この仕事が手っ取り早い。なんとか、息子たちを母校に入れるまでは……」 文/村松 剛
1977年、神奈川県生まれ。全国紙の記者を経て、2022年よりフリー
1
2
おすすめ記事
ハッシュタグ