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日本が落ちぶれたのは「変わり者」を排除したから?わが国で“多様性”が浸透しない背景を生物学者が解説

扱いにくい「変わり者」を排除する日本

ブロック 世の中をガラリと変えるような発見をしたり、イノベーションを起こしたりする人物というのは、世間から「変わり者」だと見られることが多い。しかし、扱いにくい「変わり者」をできるだけ排除しようとするのが日本の基本的なやり方だ。  だから、マリスとかジョブズのような斬新なことを考えたり、行ったりできる人間はこれまでほとんど輩出できていない。  確率からすれば、日本人にも彼らに勝るとも劣らないポテンシャルのある頭脳をもって生まれてきた人はいたはずだと思うけれど、バカみたいに画一化された教育でその才能も個性も潰されてしまったのではないだろうか。  義務教育課程での飛び級は一切認めないような、「過ぎたるは及ばざるがごとし」を地で行くような教育では、優れすぎているせいで枠をはみ出す天才は生きづらさや疎外感ばかり感じる羽目にもなりかねない。 「ABC予想」という難解な数論上の予想を証明したことで知られる天才数学者の望月新一は日本人ではあるけれど、父親の仕事の都合で5歳でアメリカに渡ったあと、中学生のときの1年間だけ筑波大学附属駒場中学校に通った以外は、ずっとアメリカで育つ。  そして、16歳でプリンストン大学へ進学し、19歳で学士課程を卒業して、23歳で博士課程を修了した。  もしも彼が日本の小学校や中学校に通っていて、日本の教育にどっぷり浸かっていたら、世界を驚かすような才能を存分には発揮できないままだったのではないかと思う。

日本の凋落は「変わり者」の居場所を奪い続けた結果である

「みんなで協力しながら一生懸命に働く」ことを美徳とする企業もまた、社員の考え方や働き方を多様化するという方向に舵を切ることがなかなかできなかった。  普通の人とは違う頭脳の持ち主というのは、そういう平準化された環境にはなかなか馴染めないだろうから、それでも無理して周りに合わせるか、そのまま世の中から弾き出されるかの二択しかなかった可能性もある。  そうやって人間の均一化を図ることばかりに執着し続け、結果として「才能ある変わり者」を排除してきた日本は、世の中が激変して同じやり方では通用しなくなっているにもかかわらず、1時間余計に働く、みたいな無駄な努力だけを重ねてきた。  日本がここまで凋落してしまったのは決してみんながサボったせいではなく、イノベーションを起こせたかもしれない「変わり者」の居場所を奪い続けてきたせいなのだ。 文/池田清彦 構成/日刊SPA!編集部
1947年、東京都生まれ。生物学者。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。生物学分野のほか、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書がある。フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などテレビ、新聞、雑誌などでも活躍中。著書に『世間のカラクリ』(新潮文庫)、『自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋』(宝島社新書)、『したたかでいい加減な生き物たち』(さくら舎)、『騙されない老後 権力に迎合しない不良老人のすすめ』(扶桑社)など多数。Twitter:@IkedaKiyohiko
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多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告 多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告

上っ面の「多様性」が自由を奪い、
差別と分断を生んでいる

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