ニュース

日本が落ちぶれたのは「変わり者」を排除したから?わが国で“多様性”が浸透しない背景を生物学者が解説

PCR法開発者も「エキセントリックな思想」の持ち主だった

検査 この人はノーベル賞を受賞する前に「日本国際賞」も受賞しているが、その授賞式で皇后(現在の上皇后)に「スウィーティ(かわい子ちゃん)」と挨拶したらしい。  またLSDやマリファナを使用していたことも公言していて、自伝では、光るアライグマ(彼はそれをエイリアンだったと言っている)と会話を交わしたこともあると主張している。  たいがいのことには寛容なアメリカ人からも「エキセントリックで傲慢で奇怪な思想の持ち主」だと見られていたようだ。  そういえばマリスが発見した当初は、PCR法の応用可能性やその深遠な価値に気づいていた人はほとんどおらず、その発見に対してマリスがシータス社から受け取ったのは1万ドル(当時の日本円で約100万円)のボーナスだけだったそうだ。  けれどもシータス社はその後「PCR法」の特許で莫大な利益を得たうえ、その特許をスイスの製薬会社に売却して3億ドル(同約3000億円)を手にしている。  その件についてマリスは自身の著書で、「このアイデアが実現して会社に利益をもたらせば、会社は私にそれ相応の待遇をしてくれるはずだと思っていた。しかしそれは無邪気な考えだった」と後悔の弁を述べているが、これはかなり気の毒な話だと思う。

周りと同じではなかったからこそ革新的な製品を生み出せた

 Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズも、子どもの頃からその天才ぶりは際立っていたようだ。彼にとって学校の授業は退屈で、先生の言うことを素直に聞くことができなかったので、問題児として扱われた時期もあった。  しかし、彼の両親は、「興味をもつように仕向けず、しょうもないことを覚えさせようとする学校が悪い」といって学校のほうが変わることを求めたらしい。そして小学4年生にして高校2年生レベルの知能の持ち主であることを認めた学校は、彼に2年の飛び級を勧めたという。  両親の判断で実際の飛び級は1年だけだったが、そのクラスでいじめにあったりしたため、別の学校に行きたいという彼の願いを両親はなけなしのお金をはたいて叶えてやった。  また彼は周りに合わせることも苦手だったが、両親は彼を型にはめようとしたり、尖った性格を丸めるような教育はしなかったらしい。わがまま放題で育ったとも言えるだろうが、周りと同じではなかったからこそ、MacintoshやiPod、iPhoneなどの革新的な製品を次々と生み出すことができたのだろう。
次のページ
扱いにくい「変わり者」を排除する日本
1
2
3
4
1947年、東京都生まれ。生物学者。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。生物学分野のほか、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書がある。フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などテレビ、新聞、雑誌などでも活躍中。著書に『世間のカラクリ』(新潮文庫)、『自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋』(宝島社新書)、『したたかでいい加減な生き物たち』(さくら舎)、『騙されない老後 権力に迎合しない不良老人のすすめ』(扶桑社)など多数。Twitter:@IkedaKiyohiko

記事一覧へ
多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告 多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告

上っ面の「多様性」が自由を奪い、
差別と分断を生んでいる

おすすめ記事
ハッシュタグ