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闇バイトに手を出したと思われたおっさんを皆で見守った結果、悲しいオチが待っていた

どうしてもと食い下がる浅井さんに対して我々が取った対策とは

a「それ、運び屋ってやつじゃないですか。普通に考えて運ぶだけで5万円はおかしいでしょ。持ってるだけで違法なものを運ばされるんですよ」  山本さんが食い下がるが、浅井さんはまたはぐらかす。 「大丈夫、大丈夫だから。そういうんじゃないから」  絶対に大丈夫じゃない。 「僕、嫌ですよ。闇バイトで逮捕って浅井さんのニュース見るの」  僕の言葉は自分でもかなり悲痛だったと思う。同時に、こんな身近なところまでに闇バイトが迫ってきていることに恐怖のようなものを感じた。  2024年10月19日、首都圏で相次ぐ闇バイトが関連していると思われる連続強盗事件を受けて警察庁は異例の緊急動画を発表している。SNSなどを通じて面識がないものが「手軽でおいしい仕事」として闇バイトに手を染める事例や、それを入口に個人情報を取られ、家族などに危害を加えると脅されて犯罪に手を染めるパターンもある。  いずれにせよ、「そんな“おいしい仕事”は存在ない」と認識することが大切だ。そもそも、本当に“おいしい仕事”ならば人にやらせず自分でやる。何か事情があっても近しい人にやらせる。不特定多数に紹介するということは、かならず後ろめたい何かが介在するわけだ。  結局、浅井さんはそういう闇バイトじゃないと言い張るし、それは絶対に闇バイトだからやめておけ、と強硬に主張する僕らとで平行線となってしまった。次第に、浅井さんが「俺が真面目に働くことを素直に祝えないのか」みたいな雰囲気になってしまった。  それ絶対に闇バイトだからやめれ。いいや違う、怪しくない、という押し問答の末、僕らが見出した妥協点が、その箱をある場所からある場所に運んで5万円のバイトの日、冷静沈着な山本さんが同行して怪しいか怪しくないか見極める、というものだった。間違いなく闇バイトで怪しいバイトでしかないのだけど、これならば山本さんがしっかりと見極めて止めてくれる。本来なら一切、関わるべきではないのだけど浅井さんが譲らないのでこうなってしまった。  浅井さんは監視付きで行うことになったけど、読者諸兄は、こういった怪しいものには絶対に関わってはならない。

依頼主の正体は何と……!

 さて、数日後、我々のもとに同行した山本さんより結果報告があった。 「単純に結果だけ先に伝えると、闇バイトではなかった」  結果は驚くものだった。 「じゃあ、本当に箱をある場所からある場所に運ぶだけで5万円もらえる“おいしい仕事”だったんですか? 犯罪性なしにそんな仕事あるんですか?」  そんなことがあり得るはずがない。 「そうじゃないけどそうでもある。ただ、ありゃ仕事じゃないな」  山本さんの歯切れが悪い。  山本さんの報告によると、まずその箱を運ぶ仕事、依頼主が浅井さんのお母さんだったらしい。お母さんが、実家から親戚の家まで箱を運ぶように依頼したというのだ。 「確かに、お母さんが依頼主がお母さんじゃ闇バイトではないですね。でも、お母さんはなんでそんなこと頼むんですか?」  普通に考えると、その箱が異様に重くて5万円の報酬が発生したとか、あとは何かと口実をつけて運ぶ先の親戚宅に浅井さんを行かせたかった、とか考えられるけど、どうやらそうではないらしい。  山本さんは「これ、いってもいいのかな」と前置きしたうえで、浅井さんの闇バイトの真相を語りだした。 「浅井さんさ、弟がいるだろ」  浅井さんには少し年の離れた弟がいる。その弟は浅井さんに似ていなくて、実家が太いというのにその実家に頼ることなく、しっかり働いて独り立ちしている。  どうやら、その弟が結婚するとかで、婚約者を実家に連れてくるイベントがあったのだ。 「弟さんなあ、働かない兄がいるって婚約者には話しているけど、実際に会わせたくなかったみたいで……」  なんか話の展開が切なくなってきたな。これ以上、聞きたくない。
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やはり世の中においしい仕事なんてないのだ
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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