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焼肉食べ放題店の元経営者が明かす“裏事情”。注文されると「苦しい/嬉しい」メニューとは――ニュース傑作選

メニューや提供内容は法律の保護外?

 外食は先頭を切って新商品を開発し、大ヒットさせてもすぐに模倣されます。外装や看板などデザインに関しては意匠権で、自己の商品・サービスに使用する屋号やブランドなどは商標権で保護されますが、メニューや提供内容を知的所有権で保護することは困難です。だから、他店もすぐに模倣して業界は同質化戦略に埋没することになります。  案の定、ワンカルビがフルメニュー食べ放題の販売を開始して注目される中、他店もすぐに内容を模倣して開始しました。しかし、食べ放題の品数を増やしたオペレーションの煩雑さから、どの店も苦労されたと思います。内容で差別化が図れなくなったら、価格で勝負しないといけないので、採算も合わずオペレーションも混乱しアルバイトが辞めたりと散々な店もありました。結局、うまくやり切れたのは最初に仕掛けたワンカルビだったと思います。  私が在籍していた焼肉チェーン店もやり切れず、違う路線にシフトを切りました。追随が成功してさらなる付加価値を追求したのが、焼肉きんぐであることは周知の事実で、この店はさすがです。

収益を確保するための仕組み

ワンカルビ

ワンカルビの儲け方とは

 焼肉食べ放題店を導入する店は週末のファミリー客を狙っていますから、郊外立地の大型店が多いです。焼肉はテーブルごとに無煙ロースターやダクト工事が必要で、坪当りの投資額は100万円程度と言われ、他業態と比較すると初期投資の負担が大きいものです。大型店は固定費負担も大きく営業利益率5%程度、と小型店の10%程度と比較すると利益率は低い傾向にありますが、売上が大きい分、利益額は多くキャッシュは回り、現金創出マシンとしての役割は果たしています。  焼肉業界における競争上の差別的要因は何といっても肉の調達力です。昔は米国の牛肉パッカーからすれば、日本は大量の牛肉を買ってくれる上得意客的な存在で優位性がありました。しかし、経済発展した中国の台頭で日本だけが客ではないと取引関係に変化が生じ、資源争奪戦で中国などに日本が買い負けし、輸入牛の仕入れも厳しくなりました。米国産牛などは日本人の嗜好に合わせた霜降り牛肉を肥育し、上得意客である日本に優先的に輸出していたのですが、そこに取引関係が変化したのです。  また、BSE問題(狂牛病:2003年12月23日、米国内で BSE の疑いを受けた牛を発見と発表)以降、焼肉食べ放題を導入する店は、主要牛肉である米国産牛の輸入が停止され、日本の焼肉業界は米国産牛が仕入れられなくなり、それが原因で倒産する焼肉チェーンも続出しました。急遽、豪州産牛の輸入にシフトしましたが、豪州産牛は米国産牛と輸入シェアは40%強と同程度でしたが、主にハンバーガー店向けに使用される牧草肥育の赤べた牛肉です。  焼肉には向いておらず、米国産牛の輸入が停止された最初の頃は、豪州産牛を提供する店には顧客から不味いとクレームが多発し、顧客離反が相次ぎました。今は日本人向け仕様の穀物飼育され、美味しい牛肉に改善して輸入されていますから安心です。
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飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
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