更新日:2025年04月01日 09:51
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大阪・関西万博のパビリオン建設はなぜ進まない? 建築エコノミストが驚愕するほどの「根本的な問題」があった

パビリオン建築のファスト化

 また、パビリオン建設に悩む国々に、独自パビリオンを諦めるように勧めてしまった結果、長屋型のテナント展示スペースや、タイプXと呼ばれる簡易な倉庫形式の箱型パビリオンなど、ドラッグストア型のファスト建築が、会場内には思いの外増えてしまっているのである。  その一方、軟弱地盤であることの情報を早めに摑んで、基礎の地盤対策を早期に行えた日本側の企業パビリオンなどでは、自重の軽い建物で現代的にデザインされた斬新なパビリオンを建設したが、そのほとんどはリングの外にある。  そのため、リング内には凝ったデザインのタイプAパビリオンと、四角の倉庫型建築が接しながら、狭い通路を隔てて同居するという配置となってしまっているのである。

「大屋根リング」パビリオン建築のファスト化を隠す

大阪・関西万博会場 建築現場 工事車両 入場ゲート それらがまだ、地上からの視点だけであったなら、建物の壁面の装飾やサイン、ラッピングによりまだ個別の表現も活きたと思われるが、リングから会場全体を見下ろすことができるために、低い箱型の黒やグレーの四角い平たい屋根が数棟も連続してしまっており、斬新なパビリオン建築の競演という意味では残念な結果となっている。  そうしたデザイン性の有無による建築の質の違いを、丸という強い形と木の柱や梁で出来たジャングルジムのようなリングの空間で覆い隠してしまっている。  結果として、そうした個別のパビリオン建築のファスト化を見えにくくしてしまっているという意味では、万博の本質である各国パビリオンの存在感を覆い隠す効果を発揮しているのは皮肉なこととしか言いようがない。  本来ならば、参加各国の文化や現代社会におけるテーマ性を造形や空間表現として、来場者に対し示すパビリオン建築の方がメインであるべきで、それを囲む会場の城壁としての木造リングのほうばかりが注目されるようでは本末転倒なのである。 <文/森山高至>
建築エコノミスト/一級建築士 1965年岡山県生まれ。88年早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、齋藤裕建築研究所に勤務。独立後は戸建住宅から大型施設まで数多くの設計監理業務に従事するかたわら、建築と経済の両分野に精通した「建築エコノミスト」として地方自治体主導の街づくりや公共施設のコンサルティングにも従事。いわゆる「新国立競技場問題」「築地市場移転問題」では早くからその問題点を指摘し、難解な建築の話題を一般にも分かりやすく解説できる識者としてテレビやラジオのコメンテーターとしても活躍する。 主な著書に『非常識な建築業界/「どや建築」という病』(光文社新書)、『ストーリーで面白いほど頭に入る鉄骨造』(エクスナレッジ)など。
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