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加藤智大に届いたBUMP OF CHICKENの言葉 中島岳志×大森立嗣Vol.3

「秋葉原無差別殺傷事件、犯人、加藤智大、彼は一体誰なのか?」
― 中島岳志×大森立嗣対談 Vol.3 ―


映画『ぼっちゃん』

映画『ぼっちゃん』 ユーロスペースにて公開中。他、全国順次公開!(C) Apache Inc

 現在、渋谷・ユーロスペースで公開中の映画『ぼっちゃん』。2008年6月8日に起こった秋葉原無差別殺傷事件を“モチーフ”にしたこの作品の公開を記念し、大森立嗣監督と、ルポ『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』を著した中島岳志氏のふたりが、“加藤智大、秋葉原無差別殺傷事件とは何だったのか”を語りつくす。

⇒Vol.2「“本当の友達”という幻想」http://nikkan-spa.jp/412176

◆加藤が感じた何かを僕らも感じられたなら

中島:秋葉原事件が非正規労働の問題として語られたと言いましたが、ちょうど2008年って労働運動が盛り上がっているときでした。その年の年末に派遣村ができ、翌年に政権交代です。そのプロセスの真っ只中で、僕自身、非正規雇用という社会問題に対して発言をする論客の一人になっていました。

湯浅誠さんや雨宮処凛さんと一緒に、闘っているといった感覚があったのですが、果たして、加藤は僕たちが書いたものを読むのだろうか?とも思っていました。加藤に届く言葉はどんな言葉なんだろうと。

覚えてらっしゃる方も多いと思いますが、加藤は事件の3日前に、派遣先の工場で「つなぎがない」って暴れています。朝6時に出社して、自分のロッカーに自分の作業着がなかった。彼が見落としたのか、誰かが隠したのかわかりません。が、そこで彼はハンガーをなぎ倒して、持っていた缶コーヒーを壁に投げつけて、「どうなってんだよ! この会社は!」と突然キレて、ドアを蹴飛ばして、無断退社をします。

通勤の送迎バスがない時間帯ですから、彼は最寄り駅までの間、イライライライラしながら掲示版に書き込みをしながら帰ります。

「作業場に行ったらツナギがなかった。辞めろってか。わかったよ」

「電話うぜ。電話がくるとウェブが使えん。書き込み中断されんのがうざい」

そして駅に着き、ホームで電車を待っている間、そして、電車を降りた後に、彼はこれまでの言葉とまったく違う言葉を書き込みます。それを見たときに、僕、「あっ」と思ったんです。

書き込まれていたのは、BUMP OF CHICKENの『ギルド』という歌の一節でした。恐らく、ヘッドフォンで聞いていたわけではないと思うんですが、一言一句間違いのない歌詞を書いています。

美しくなんかなくて
優しくもできなくて
それでも呼吸が続くことは許されるだろうか

その場しのぎで笑って
鏡の前で泣いて
当たり前だろう
隠しているから気づかれないんだよ

彼の中から沸きあがってきた言葉は、湯浅誠でも雨宮処凛でもなく、ましてや僕なんかではなく、バンプの言葉だったわけです。

もちろん、バンプがどうという話ではなく、加藤の心に手をつっこんだ言葉はあった、ということです。それは僕たちの批評の言葉や論文の言葉ではない。どちらかというと大森さんに近い、芸術の世界に近づいたところの言葉が彼の心をつかみ、そのときに内発的に言葉が沸いてきている。これと同じ力を映画も持っているんじゃないかなと思いました。

大森:この作品では、一応、脚本のようなものはありましたが、役者さんたちには、「こう書いてあるけれどその通りにしなくてもいいよ」って言っていました。「どう思いますか?」「どう感じますか?」と、突き詰めていく作業こそがまさにこの作品を作っていく作業でした。

加藤が感じた何かを役者も感じることができたなら、加藤の何かにちょっとでも触れるかもしれないという思いです。ちょっとだけ触れることによって、今の日本で、なぜ加藤という犯罪者が生まれたのか? 僕らと社会にいて、同じ空気を吸っていた人間が翌日、あんな凶行に走る。「捕まりました、隔離しましょう」ということでは済まないんじゃないかなというのが、やはり、僕が最初にやりたいと思ったことなのかもしれません。

⇒Vol.4「加藤が生きた“斜めの関係”がない社会」へ続く
http://nikkan-spa.jp/412236


映画『ぼっちゃん』(http://www.botchan-movie.com/)
監督・脚本/大森立嗣 出演/水澤紳吾、宇野祥平、淵上泰史、田村愛ほか ユーロスペースにて公開中。他、全国順次公開! 製作・配給/アパッチ twitter:https://twitter.com/botchan_movie

●中島岳志(なかじま・たけし)
1975年生まれ。歴史学者・政治学者。北海道大学大学院法学研究科准教授。専門は南アジア地域研究、近代政治思想史。2011年に、秋葉原事件の加藤智大の足取りを追い、関係者への取材を行い、裁判の傍聴を重ね、『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』(朝日新聞出版)を著す。ほか著書に、『中村屋のボーズ』(白水社)、『保守のヒント』『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『朝日平吾の鬱屈』(筑摩書房)、『ガンディーからの“問い”―君は「欲望」を捨てられるか』 (日本放送出版協会)、『ヒンデゥー・ナショナリズム』(中公新書)、『やっぱり、北大の先生に聞いてみよう―ここからはじめる地方分権』(北海道新聞社)など。twitter:https://twitter.com/nakajima1975

●大森立嗣(おおもり・たつし)
1970年生まれ。前衛舞踏家で俳優の麿赤兒の長男として東京で育つ。大学入学後、8mm映画を制作。俳優として舞台、映画などの出演。自ら、プロデュースし、出演した『波』(奥原浩志監督)で第31回ロッテルダム映画祭最優秀アジア映画賞を受賞。その後、『赤目四十八瀧心中未遂』(荒戸源次郎監督)への参加を経て、2005年、『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。以降、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『まほろ駅前多田便利軒』『2.11』などを手がけ、国内外で高い評価を得る。最新作『さよなら渓谷』(http://sayonarakeikoku.com/)は今年、6月22日公開

<構成/鈴木靖子>

秋葉原事件 加藤智大の軌跡

なぜ友達がいるのに、孤独だったのか――

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