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加藤智大の生きた“斜めの関係”がない社会【中島岳志×大森立嗣】Vol.4

「秋葉原無差別殺傷事件、犯人、加藤智大、彼は一体誰なのか?」
― 中島岳志×大森立嗣対談 Vol.4 ―


映画『ぼっちゃん』

映画『ぼっちゃん』  ユーロスペースにて公開中。他、全国順次公開!(C)Apache Inc.

 現在、渋谷・ユーロスペースで公開中の映画『ぼっちゃん』。2008年6月8日に起こった秋葉原無差別殺傷事件を“モチーフ”にしたこの作品の公開を記念し、大森立嗣監督と、ルポ『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』を著した中島岳志氏のふたりが、“加藤智大、秋葉原無差別殺傷事件とは何だったのか”を語りつくす。

⇒Vol.3「加藤に届いたBUMP OF CHICKENの言葉」
http://nikkan-spa.jp/412223


◆「人と話すのっていいね」

中島:冒頭(※詳細 http://nikkan-spa.jp/412165)でお話しました、加藤はなぜ、わざわざ時間とお金をかけて福井にダガーナイフを買いに行ったのかということについて、お話できればと思います。

このお店は、福井から在来線でいくつか行った駅から、またさらに離れたところにある、ショッピングモールの2階に入っていました。僕も同じルートを辿ってそのお店を訪ねてみましたが、裾野から在来線、新幹線、北陸本線、タクシーを乗り継いで片道5時間半、2万5000円くらいかかる道程です。

そのお店を加藤は雑誌の広告で見つけ、ネットで検索して訪れているですが、この店は、あることでとても評判のお店だったんです。何で評判だったのかというと、「優しい女性店員さんがいる」と、評判だったんです。

加藤は店に到着して、商品を手にしてカウンターでうつむき加減で商品を出します。「会員カードを持っていますか?」といったやり取りから、静岡県から来たこと、出身は青森だということ、青森は雪かきが大変だという話まで、その「優しい」と評判の女性店員と加藤は会話を続けます。20分ほどおしゃべりをして、加藤はお店を出て、そのショッピングモールにある回転寿司屋で食事をするのですが、またお店に戻っています。

そして、3000円ほどの滑り止めのついた手袋を買い、再び店員さんと、おしゃべりをしているんです。

この手袋は、事件に使われていません。なぜなら、サイズが合っていなかったから。加藤という人間は、かなり慎重に買い物をする人間です。そんな彼がサイズの合わない手袋を買った。これはもう、おしゃべりをする口実だったんだと思うんです。そしてお店を出るんですが、また、戻ってくる。今度は「タクシー乗り場はどこですか?」と訪ねる。タクシー乗り場と降り場は同じで、タクシーでショッピングモールまで来た加藤は、タクシー乗り場を知っていたはずなんです。

帰路についた加藤は、北陸本線に乗ってすぐ書き込みをします。

店員さんいい人だった。
人間と話すのっていいね。
タクシーのおっちゃんともお話しした。

福井からの帰り、彼は人としゃべったせいかテンションが高く、東海道新幹線が浜名湖を通過するとき「浜名湖、浜名湖」と書き込んだりしています。そして、まっすぐ家には帰らず、沼津駅で風俗店に寄っています。

加藤は人間としゃべりたかったんです。でも、職場の人間は利害関係が伴う他者でどうしても建前にならざるを得ない。ネットでそれを求めたけれどなりすましがでてきた。

では、オレはどこに行けばいいのか? 人間としゃべりたいという問いなんです。

彼が職場と自宅の往復で立ち寄る店は、コンビニと牛丼チェーン店の2軒だけ。彼にはどこかで誰かとしゃべるような斜めの関係がまったくありませんでした。

これは社会の問題でもあるはずなんです。「人としゃべりたい」と思ったとき、福井まで行ってダガーナイフを買う、タクシーに乗る、風俗に行く……。お金を媒介とするところでしか人としゃべれない、と思わせるような社会に我々はいるということです。

この風景は皆が体感しているはずで、ここから考えなくてはならないのではないでしょうか。

◆自分の痛みから始める

中島岳志×大森立嗣対談大森:うちの家庭は、父親は前衛舞踏家で母親は新宿の女王と呼ばれた女でして(笑)、うちのおふくろは、道を歩いている全員友達だと思っていて、みんなに声をかけて歩いているんです。でも、見ていると、やっぱり、声をかけられる側も元気が出てくるんですよね。そういう単純な、ちょっとクダラナイ話でもして、ちょっと触れ合うのって、大切ですよね。

中島:ただ、それを「3丁目の夕日の時代はよかった」的な、ノスタルジーに回収させたくはないんですね。それは加藤の痛みからもっとも離れることになる。やはり、あそこの痛みを共有しながら、一歩一歩迫って行くしかない。秋葉原事件で、加藤にブレーキを踏ませるとしたら、どういう解があるのか?を無数にみんなが、自分の中の痛みからスタートさせること、というのかな。その痛みからなんか一歩でも何か踏み出せるようになっていくこと。それが秋葉原事件の受け止めることなのかなという思いはあります。

大森:僕、この映画で、主人公である梶に、思いっきり叫ばせたいという思いがありました。その理由として、まずひとつは映画界の話なんですが、ずっと自然な演技というものが流行っているというのがあります。これは浅野忠信さんという俳優さんがエポックメイキング的に日本の芝居を変えた感じがあり、それ以降、浅野さんをマネるような役者さんが増え、また、そういう映画を作る人もすごく多くなってきました。それに対して僕は、「何か違うんじゃないかな?」という思いを抱いていて、それに反するように役者に思いっきり叫ばせたいと。

叫ぶという行為は、自分の自意識とか飛んでいくんですよね。お芝居しているという自意識とかも超えたときに、何か積極的ではない何かが見てくるんじゃないかというのがひとつ。あと、加藤智大という男は、きっと叫べなかったんだろうなとも思ったんです。

中島:そうですね。それが僕は重要だと思います。

大森:この男に叫ばせたらどうなるんだろうと、自分を試したところもあります。

中島:加藤の叫びって、「カチカチ」という携帯のボタン音だったんだと思うんです。「部屋の中に携帯のカチカチ音が虚しく響いている」と非常に文学的な表現をしているんですが、彼の沸騰した怒りは、そんな素の顔で打ち込む「カチカチカチ」という音で表現された。その音が彼の現実における声でしかなかった。

カチカチではなく、現実に叫ばせたというのが、大森さんの彼に対するアプローチなんだろうなって思いました。

⇒Vol.5「 秋葉原事件とは何だったのか?」へ続く
http://nikkan-spa.jp/412247


映画『ぼっちゃん』(http://www.botchan-movie.com/)
監督・脚本/大森立嗣 出演/水澤紳吾、宇野祥平、淵上泰史、田村愛ほか ユーロスペースにて公開中。他、全国順次公開! 製作・配給/アパッチ twitter:https://twitter.com/botchan_movie

●中島岳志(なかじま・たけし)
1975年生まれ。歴史学者・政治学者。北海道大学大学院法学研究科准教授。専門は南アジア地域研究、近代政治思想史。2011年に、秋葉原事件の加藤智大の足取りを追い、関係者への取材を行い、裁判の傍聴を重ね、『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』(朝日新聞出版)を著す。ほか著書に、『中村屋のボーズ』(白水社)、『保守のヒント』『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『朝日平吾の鬱屈』(筑摩書房)、『ガンディーからの“問い”―君は「欲望」を捨てられるか』 (日本放送出版協会)、『ヒンデゥー・ナショナリズム』(中公新書)、『やっぱり、北大の先生に聞いてみよう―ここからはじめる地方分権』(北海道新聞社)など。twitter:https://twitter.com/nakajima1975

●大森立嗣(おおもり・たつし)
1970年生まれ。前衛舞踏家で俳優の麿赤兒の長男として東京で育つ。大学入学後、8mm映画を制作。俳優として舞台、映画などの出演。自ら、プロデュースし、出演した『波』(奥原浩志監督)で第31回ロッテルダム映画祭最優秀アジア映画賞を受賞。その後、『赤目四十八瀧心中未遂』(荒戸源次郎監督)への参加を経て、2005年、『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。以降、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『まほろ駅前多田便利軒』『2.11』などを手がけ、国内外で高い評価を得る。最新作『さよなら渓谷』(http://sayonarakeikoku.com/)は今年、6月22日公開

<構成/鈴木靖子>

秋葉原事件 加藤智大の軌跡

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