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「自炊代行」判決にも暗雲。あまりに無知な悪質業者が逮捕

50SCANNER

「50SCANNER」Webサイト。目を疑う表示が多数

 5月1日、書籍を電子化する「自炊」代行業者の男が、人気漫画「銀魂」など46冊分の複製データを記録したDVDを販売したとして、著作権法違反(譲渡権の侵害)の疑いで長崎県警に逮捕された。容疑者は「50SCANNER」というWebサイトにて自炊代行サービスを提供していたが、客から本を受け取らずに不正に複製したデータのみを販売したとみられている。この報道をうけて、出版関係者の間では「悪質というより無知すぎる」と呆れる声があがっている。

 問題となった業者のサイト・ブログでは、「ハンター×ハンター1巻~10巻までプレゼント中!!」、「新規会員登録のお客様にベルセルク1巻~10巻までプレゼントさせていただききます!!」などが堂々と記載されている。「ipad,kindle,koboなどタブレットで快適に読んでいただけます!!」とも併記されているので、データでの提供とみられる。自炊代行における法解釈をめぐっては、著作権法の複製権侵害が問題視されており、今回の件は譲渡権の侵害であり、自炊代行の議論とはまったく話が異なるのだ。しかし、一部報道ではあたかも「自炊代行」で逮捕されたかのように報じられていた。

 ここで自炊代行をめぐる現在までの議論を簡単に整理しておこう。自炊代行業者は、2010年頃からタブレットの普及に伴い登場した。紙の本を本棚のスペースにとらわれず所有できることや、移動中や旅先で読書がしたいといったニーズから注目を集めたが、2011年9月には、作家や漫画家122人と大手出版7社が、自炊業者約100社に対して公開質問状を送り、自炊代行業を認めない姿勢を「撲滅」という言葉を用いて明らかにした。

 その後、作家らによる民事訴訟に発展し、その影響もあってかサービスを終了した業者も少なくない。1度目の訴訟については、事業者の認諾というかたちで、自炊代行事業を終了したため、判決は出なかった。2011年11月には、作家7名が自炊代行業7社に対して民事訴訟を起こし係争中となっている(2013年5月2日時点)。そのため、現段階では「自炊代行」自体への司法判断は完全に出ていない。しかし、きわめてグレーであり、違法判決になるのではという見方が多勢だ。

 裁判は続いているが、現在でも自炊代行・スキャン業者は多数存在する。たとえば、店内に置いてあるマンガを利用客自身が購入後スキャンしてデータを持ち帰れる「自炊の森」。秋葉原と池袋に店舗を構えており、スキャンについてはあくまで利用者自身が行うので違法ではないというスタンスだ。

 2013年4月には、第三者による書籍の電子化を簡便に許諾できる仕組み作りを目指す「Myブック変換協議会」によるシンポジウムが開催された。現状は、自炊代行業者に対する出版社・著作者の不信感は強いが、書籍を気軽に電子化したいニーズも高いことは事実。そこで、出版社・著作者に不利益をもたらさずにユーザーの利便性を高めるためには、著作権の許諾をどの様におこなっていくべきか、パネリストから様々な案が提案された。

 一部の著作権者・出版社は裁判中で自炊代行に対しては徹底抗戦の構えだが、もちろん全ての関係者が同じ考えというわけではない。2010年に電子書籍元年と言われてから様々な問題が浮き上がり、議論が重ねられているのが現状だ。

 電子出版に詳しい出版関係者は、「シンポジウムなどを経て今後の議論の方向性がみえてきたかなという状況のなか、今回の逮捕報道で『自炊代行=悪』というイメージだけが広まってしまいそうで残念です」と嘆いていた。現在、係争中の裁判結果とともに、今後も続いていくであろう自炊・自炊代行業についての議論を、イメージにとらわれず冷静に見守っていきたい。 <取材・文/林健太>




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