増税派に堕ちた自民党大物議員がアベノミクスを潰す!?
連載10【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】
▼増税派に堕ちた自民党大物議員
あなたもか! 稲田さん。
これは6月12日、自民党の稲田朋美政調会長の「財政健全化を経済成長に頼るのは雨乞いのようなものだ」という発言を聞いたときの、率直な感想です。私は稲田氏に大きな期待を寄せていました。というのも、保守の代表格であり次期首相の有力候補、つまりアベノミクスの後継者と目されている大物議員です。期待するなというのが無理な話です。
その稲田議員が、アベノミクスの考えとは真逆の「日本ダメ論」「日本成長しない論」を展開したのですから、期待は完全に裏切られてしまいました。本当に情けない限り。絶望するしかありません。
自民党内の稲田氏のような大物議員が「増税派」に寝返ってしまうと、ほかの議員もそれに追従し、増税包囲網が完成しかねません。2013年10月に行われた8%への増税判断もそうでした。これまで強く増税に反対していた山本幸三、西田昌司両議員が突然増税を容認し、自民党内が増税一色に染まり8%増税を押し切られたのは記憶に新しいところです。
「あなたもか!」というは、あの忌まわしき記憶がフラッシュバックしたためです。再び10%の増税も押し切られてしまうのでしょうか……、それだけは絶対に避けねばなりません。
▼日本以外の国は経済成長している
稲田政調会長の発言を要約すると、「日本の経済はもう成熟しきっており、構造的に成長できなくなっている。だから経済成長による自然増収に頼った財政健全化は無理」だと言いたいわけです。
しかし、これは間違っています。日本は構造的に成長できなくなったのではなく、ただ単にこれまでの経済政策が誤っていたので経済成長できなかっただけにすぎません。
図1のグラフは2003年から2013年までの先進各国の名目GDP成長率を比較したものですが、この間成長がマイナスとなっているのは日本だけです。それ以外の国は当たり前のように経済成長しています。
⇒【グラフ】はコチラ nikkan-spa.jp/?attachment_id=905913
もし仮に、「日本経済が成熟しきっているから成長できない」という主張が本当なのであれば、経済成長を続けている他国は、日本よりはるかに未成熟な国だということになります。はたして日本はもっとも経済的に成熟している国なのでしょうか? 普通に考えてそんなことはありません。
しかし、「成長に期待するのは雨乞いと同じ」だと稲田政調会長はおっしゃっているので、他国は雨乞いを成功させたのでしょう。日本はお祈りが足りなかったのかもしれません。
▼人口減少は成長できない理由にならない
「日本はかつて高度成長を成し遂げられたのは、人口が増加していたからだ。人口減少に突入した現在ではこれ以上の成長は望めない」
ほかにも、「日本ダメ論」を主張する者は、こういった人口減少を理由に挙げることが多いです。確かに人口の増減は経済成長に影響を与える要素の一つですが、経済成長のすべてが人口の増減によって決まるものではありません。要は、国民一人あたりの労働生産性を高めていけば、たとえ人口が減っていたとしても経済成長は可能です。
例えば、ドイツは2003年→2013年の10年間で人口が2%以上も減りましたが、GDPは26%成長しています。対して日本は、人口減少時代に突入したとはいえ、まだ0.22%程度しか減っていません。しかし日本のGDP成長率は-3.25%です。
人口増加率 GDP成長率
日本 -0.22% -3.25%
ドイツ -2.14% 26.72%
(※2003年→2013年の変化率)
日本よりも人口が減っているドイツは経済成長しています。日本が成長できない理由はどこにもありません。
はっきり言ってGDPは政府が余程のヘマをしない限りは成長するものです。現に過去10年で経済成長していないのは日本だけ、「日本は経済成長しない論」は経済学的にも明らかにおかしく、政府による経済政策を完全に否定しています。政府は無力だと言っていることと同じです。政治家がそれを言ってしまってはオシマイでしょう。そして、その日本が犯したヘマこそが、稲田政調会長が必要だと主張している「緊縮増税」です。
▼増税こそが日本の成長を止め、財政を悪化させる
ギリシャの緊縮増税の影響については前回の記事「『増税しないと日本もギリシャになる』は真っ赤な嘘」で説明しましたが、日本もギリシャほど過激ではないものの緊縮増税をずっと続けています。その代表的な例が1997年に実施された消費税率の3%から5%への引き上げです。この消費税の増税以降、日本の経済成長は完全に止まってしまいました(図2)。
⇒【グラフ】はコチラ nikkan-spa.jp/?attachment_id=905914
増税をする1997年までは日本も経済成長を続けていたのですが、増税後に一気にマイナス成長に突入しています。
要するに1997年に増税をしなければ、日本は他国と同様に経済成長していた可能性が非常に高いのです。日本の経済低迷の原因は増税の失敗です。消費税の増税を止めるか、もしくは減税すれば確実に日本の経済は成長することでしょう。
これのどこが「経済成長への期待は雨乞い」なのでしょうか。日本経済の息の根を確実に止める「増税」を行って、どうやって日本国民を豊かにすることができるのでしょうか、稲田さん!
▼経済成長による財政健全化の効果が現れ始めている
実は稲田氏が「雨乞い」と批判するアベノミクスによる経済成長は、日本の財政を着実に改善させています。
内閣府は経済財政諮問会議にて、2020年の基礎的財政収支が6.2兆円に縮小する見込みであるという中間報告をまとめました。赤字額は今年2月時点の試算の9.4兆円から3.2兆円縮小するとのことですが、この2020年の基礎的財政収支の縮小改訂は今回が初めてではありません。黒字化目標を掲げてから何度も改訂を続けています。
2020年度基礎的財政収支の赤字額の試算推移は以下のとおり。
2014年1月 約12兆円
2014年7月 約11兆円
2015年2月 約9.4兆円
2015年7月 約6.2兆円
すでに当初の試算よりも6兆円近く税収が上振れしています。この税収の上振れはアベノミクスによる経済成長により法人所得税が伸びたおかげでしょう。消費税1%の税収は約2兆円と言われていますので、すでに消費税3%分税収が増えているということになります。
つまり、2017年には8%から10%への消費税の増税が予定されていますが、その増税分の税収はもうとっくに経済成長によって達成できてしまっているのです。しかも、この調子で経済成長、企業の業績改善が続けば赤字額は今後も縮小していくものと思われます。
これのどこが雨乞いなのでしょうか? 確実に経済成長によって財政健全化が前進しているではないですか。
また、消費税10%の税収はすでに確保できているのですから、増税する意味や大義名分はもはやありません。景気を悪化させ、国民の生活を苦しめるだけの10%への増税は速やかに凍結するべきです。
▼「雨乞い」発言は誰の入れ知恵か
しかし稲田氏は法学部出身であり、経済財政は専門ではありません。よって、この「雨乞い」発言は誰かの入れ知恵であると思われます。この発言は誰が言わせたものなのか……これは恐らく、稲田氏の経済ブレーンである土居丈朗慶応大学教授で間違いないでしょう。土居氏は強硬な「増税派」の経済学者として有名で、氏の助言を普段から聞いていれば、稲田氏が緊縮増税に肯定的になっても不思議ではありません。
ちなみに土居丈朗氏のトンデモ増税論の一部を紹介すると「増税しても景気は悪化しない」「2014年の景気の失速は野菜不足(供給側の問題)が原因である」などがありますが……、素人目で見てもこのようなことはありえないことは明白です。こんな妄言に騙されるなんて、稲田さん本当にどうしてしまったのでしょうか非常に残念でなりません。
しかし、ここで諦めるわけにはいきません。次回は稲田政調会長を狂わせた土居氏のトンデモ増税理論に切り込んでいきたいと思います。
◆まとめ
・他国は当たり前のように経済成長している
・人口が減少しているドイツの成長率は日本よりも高い
・日本が成長できないのは構造的な問題ではなく、消費税増税などの経済政策のミス
・経済成長による財政健全化の効果はすでに出ている
→2020年の財政赤字試算額は縮小中
・稲田氏は土居教授のトンデモ増税論に毒されている
【山本博一】
1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。4児のパパ
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