「小橋建太の青春おすそわけ」――“鉄人”と呼ばれた元プロレスラー・小橋建太が、現役レスラーをゲストに招いてトークを繰り広げる。悩めるレスラーたちに、小橋は果たしてどんな“青春”をおすそわけするのか？ 「小橋に憧れてプロレスラーになった選手がいる。しかもいま、悩んでいるらしい」――。そんな噂を聞きつけ、オファーをした。その選手とは、大日本プロレス・菊田一美。29歳でデビューし、現在31歳。勢いのある後輩たちに先を行かれ、同期にも負け越している現状に焦りを抱いている。しかし、小橋のようなレスラーになりたい。そう熱く語る菊田の思いを、小橋が全力で受け止める。 ――菊田選手はフィッシャーマンズ・スープレックスにこだわりがあるそうですね。 菊田一美（以下、菊田）：沼澤（“黒天使”沼澤邪鬼）さんに「スープレックスを1個使ったほうがいいよ」と言われて。祖父と父親が漁師なので、フィッシャーマンがいいかなっていう単純な理由です（笑）。親父にも、プロレスやってますアピールができるかなと。 小橋建太（以下、小橋）：3代目は兄弟が継いでるの？ 菊田：僕、妹しかいないので、たぶん父親の代で終わる……。 小橋：まだまだ継ぐ可能性あるよ。 菊田：いや、プロレスを続けたいです（笑）。 小橋：ご両親は、プロレスラーになることには反対しなかったの？ 菊田：父親はけっこうイケイケな感じでした。本当は継いでもらいたかったと言ってましたけど。母親は心配だったみたいで、賛成ではなかったです。でもいまでは応援してくれてます。 小橋：いまも継いでほしい気持ちはあるんじゃないかな。でも息子が頑張ってやってるから、応援してくれてるんだろうね。プロレスって、オリジナリティというか、個性が大事なんだよ。個性を出していかないと、やっぱり生き残っていけない。菊田君はバックボーンに個性があるんだから。 菊田：どうやったら個性を出せるでしょうか？ 小橋：フィッシャーマンズ・スープレックスだと、みんなと一緒になっちゃうじゃん。せっかくお父さんが本物の漁師なんだから、日本的な名前をつけるとかさ。投げ方も人とは違うんだっていうオリジナリティを出したら、もっと面白いと思う。他の人とはここが違うっていうのを見せることができたらいいよね。 菊田：感情はリミットをかけないで出してるつもりです。それでも足りないと思うので、もっともっと出していきたいです。お客さんが感情移入してくれないと、プロレスって面白くないじゃないですか。小橋さんは思いっ切りそういうタイプですよね。やられてもやられても、立ち上がる。僕はそこに憧れたんです。そういうレスラー像を目指してます。 小橋：やってる本人が感情移入できていなかったら、見ている人は絶対できないよね。一生懸命試合をして、そのリングに上がるために一生懸命練習もする。そうじゃないと、ファンのみんなは感情移入してくれない。菊田君自身も、自分がどうやればいいのか少しずつ分かってきてると思う。だからこれから伸びてくるんじゃないかな。伸びてきてほしいね。 菊田：伸びていきたいです！ 小橋：自分のDNAを受け継いでる選手には、やっぱり伸びていってほしいんだよね。大きな舞台で勝ったときに、俺も嬉しい。そのときは、「小橋のことはべつに好きじゃなかった」って言うかもしれないけど（笑）。そうなったらずっこけるけどね。 菊田：いやいや、絶対言わないですよ（笑）。 小橋：自分を見て育った人間が活躍してくれるのは、プロレス界に恩返しができたっていう思いになるから嬉しい。すごく。 菊田：もうやるしかないですね。 小橋：やるしかないよ。31歳だったら、これからだよ。いまいろんなスポーツで、選手寿命が伸びてるからね。筋肉って、20代、30代が一番良さそうじゃない？　でも最近はプロレスだけじゃなくて、他の競技でも40代のチャンピオンも多いからね。これまで培ってきたものが花開くのは、それくらいの年なんだろうね。あと15年は真面目にプロレスのことを考えていけば、ガンと伸びるよ。