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「新年の誓い」を最速で破った僕は心を鍛えるべきなのかもしれない

ossan2-2【おっさんは二度死ぬ 2nd season】

新年の誓い

 新年、あけましておめでとうございます。どうぞ今年もこの連載「おっさんは二度死ぬ」をよろしくおねがいいたします。  いよいよ新年、2022年を迎えました。  さて、人間というものはなかなか面白いもので、新しい年を迎えることである種の区切りを感じ取り、今年こそは何かを始めてみよう、と決意するものです。本来は年が変わったからといって劇的に何かが変わるわけではなく、ただ同じような日々が続くだけ。本質的には何も変わらないのですが、何か変えようという作用が働くわけです。  各種の業界はそのあたりの人間の機微をよく理解していて、この時期になると通信講座のCMやら広告やらが増えるものです。うちの近所にあるスポーツジムもこの時期は新規入会キャンペーンに力を入れている感じがするので、年の区切りを皮切りにジムに入会して体を鍛えるか、という決意を狙っているのでしょう。  そもそも人はそこまで積極的に動く生き物ではありません。多くの人は誰かの後押しがあって初めて一歩を踏み出すことができる、そういうものなのです。そういった意味では「新年の区切り」とはまさしく背中を押してくれる存在なのかもしれません。  僕にとってもあれはまさにそうでした。  何年か前のことでした。まさしく新年を迎え、何か新しいことをはじめたいと思っていた僕。そこに幸運が重なりました。比較的に近い場所に新しいスポーツジムがオープンしたのです。とてもお得な新規入会キャンペーンみたいなものを展開している様子でした。

意志が弱いため、押しの強いトレーナーのいるジムを選んだ

「新しい年という区切り」「新しいスポーツジム」という2つの“新しい”が僕の背中を押してくれ、いっちょ体でも鍛えてみるか、と決意するに至ったのです。しかしながら、いささかその押しが弱い。新しい年と新しいスポーツジム、これだけでは決定打に欠ける、そう思ったのです。  そこで「押しの強いジムの人」という3つ目の要素に賭けることにしたのです。こういった新規オープンのジムは、スタートダッシュ的に入会者を増やしたいものです。そこには口八丁手八丁で入会を促す押しの強いジムの人がいるはずです。その人が雄弁にジムの魅力を語り、多少の誇張はあるかもしれませんが魅惑的な言葉を並べ、入会を強く勧めてくるはずです。まあ、そこまでいうなら入会してみっか、となる。それが必要なのです。  つまり、普通の人は「新しい年」「新しいジム」あたりで入会するほど身軽なのでしょうが、僕は極度に腰が重い。それに付加して「熱心に口説いてくれるジムの人」という存在が必要不可欠なのです。  そんな押しの強いジムの人を期待してジムのドアを叩くと、そこには白で統一された奇麗な受付ブースがありました。入会キャンペーンを絶賛展開中なのわけですから、ここに威勢の良いジムの人が大声を張り上げていて、その勢いに流されてついつい入会してしまう、という展開を期待したのですが全くそういったことはなく、完全に無人でした。活気もクソもなかった。
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いたよいたよ、押しの強そうなインストラクターが
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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