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話の通じないおっさんの、頭の中は一体どうなっているのか? 謎が今解き明かされる

【おっさんは二度死ぬ 2nd season】

元傭兵は平面的

 僕自身は見紛うことなきおっさんであるのだけど、それと同時に「おっさん研究家」であるとも自負している。どうしておっさんはおっさんなのか、どうしておっさんは嫌われるのか。そのあたりを常に模索している。この日刊SPA!における大人気連載「おっさんは二度死ぬ」だってその研究活動の一環だ。  おっさんを研究する。それは同時におっさんである自分自身の生き方を見直すことにも繋がるのだ。  そんな研究の中で「おっさんとのコミュニケーションにおける断絶」というテーマが近年ではもっともホットだ。  ときに、ほとんどコミュニケーションがとれないおっさん、という存在を目の当たりにすることがある。話が通じないというやつだ。その話の通じなさの原因は頭の固さであったり、そもそも思想が凝り固まっていて理解不能であったり、話は通じているのだけど様々なしがらみにより通じてないフリをしなければならなかったり、様々だ。  ただ、長年の研究によると、おっさんによるそれらの話の通じなさは、過程をすっとばし、いきなり結果から入ることに起因する場合が多い。極端な例を挙げさせてもらうとこうだ。 「いやあ、あの子はね、瀬戸内海というよりは日本海だよ」  立川市の場外馬券場WINSで知り合った松田さんはそう言った。松田さんはひとりのWINS職員(通称、緑のおばちゃん)に片思いをしており、その女性を指してそう言ったのだ。  いきなり女性を海に例えだして、瀬戸内海だとか日本海だとか言い出す時点で頭がおかしく、まっとうなコミュニケーションをとることが難しく思えるのだけど、松田さんの頭の中で何が起こっていたのか、それを紐解いていくとまあ、理解はできる。

意中の女性を勝手に枠組みの中に入れて語り出すおっさん

 松田さんが恋をした緑のおばちゃんは、松田さんが好きな曲を歌う女性歌手に似ていた。その人を見るとその歌を思い出す。それは「女は海~」と歌う有名な曲だ。彼女も海かもしれない。どちらかといえば瀬戸内海のように穏やかな海でなく、波の荒い日本海のような激しい女性が好みなので彼女もそうあって欲しい。  こういった思考の変遷がある。それをすっ飛ばして「彼女は日本海」と言い出すから意味不明で伝わらないだけなのだ。  おっさんのコミュニケーションには往々にしてこれがある。それは様々な経験を経てきてどんどんその過程が省略されていったというよりは、単に情報の受け手のことを想像する力がなくなっていっただけなのだろう。この情報を受けた人がどう感じるか、それを推察する力が極度に落ちていく。それがおっさんだ。  では、この松田さんを例に、どのような思考の過程を辿ったのか、みんなで考えてみよう。  それは、場外馬券場WINSの制限も解除され、それまでは馬券を買う券売機だけが動いていたのに、レースの実況放送もするようになった時のことだったと思う。実況テレビの前におっさんどもが陣取り、「福永金返せ」だとか、「和田竜二、魂の騎乗!」だとか叫ぶ日常が帰ってきたときのことだった。
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一体何を言っているのかわからない松田さん
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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