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匿名掲示板で叩かれているお気に入りの風俗嬢を助けるために立ち上がったおっさん達だが……

おっさんは二度死ぬ 2ndシーズン

果てしなき戦争

 これは戦争なんだと彼は言った。さすがにそこまでは言い過ぎじゃないかと思ったけど、確かに戦争なんだと言った。  山岡さんという男がいる。山岡さんはうだつの上がらない男で、酒好き、ギャンブル好き、女好きと欲望のトリプルクラウンみたいな状態で日々の生活を過ごしている人だ。特に風俗が大好きなようで会う度にその時のお気に入りの女の子の話をしてくれる。 「この間さあ、デートコース行っちゃったわけよ」 「るね」ちゃんというデリヘルの女の子がお気に入りのようで、最近ではほとんど「るね」ちゃんしか呼んでいない様子だった。デリヘルの女の子を呼んで一緒に街に飛び出してデリヘルの子とデートを楽しむコースだ。  その日も山岡さんは300分のデートコースで「るね」ちゃんを抑えた。300分と言えば5時間だ。デートとしては普通の時間だが、風俗のプレイ時間としては長い。料金だって相当なものになるはずだ。 「俺レベルになると店に予約の電話なんかしねえのよ、『るね』ちゃんに直接、300分、デートコースって送れば済むから」  どういった類の自慢なのかよくわからなかったけど山岡さんはとても誇らしげだった。 「俺なんてかわいいものよ。なかには10時間、デートコースで貸切る常連もいるからな」  なぜか山岡さんは誇らしげだった。そこ誇っていいのは10時間も貸切った別の常連だろ。

しかし「るね」ちゃんの様子はおかしく……

 山岡さんは続けた。  いざデートコースが始まり、「るね」ちゃんと待ち合わせると少し様子がおかしい。いつもは天真爛漫な「るね」ちゃんが終始、浮かない顔をしているのだ。ゲーセンでクレーンゲームをしたり、話題のスイーツを食べたりしていても「るね」ちゃんの表情は浮かない。 「どうしたの? 今日は元気ないじゃん」  山岡さんは心配になりそう声をかけたそうだ。 「けっこう高い料金を払ってデートコースやってるのに、そうやって落ち込んだ感じになられると損した気分になっちゃいますよね」  僕がそう言うと山岡さんは怒った。実はそういうものではないらしい。それは素人が考えがちな痩せた考えらしい。知らんがな。  まず、「るね」ちゃんはプロ根性が高い本格的なプロらしい。どういった点からプロだと感じるのかを山岡さんが延々と語ってくれたのだけど、正直、知らんがなとしか思わなかったが、とにかくプロであるらしい。  そんなプロであるところの「るね」ちゃん。本来ならプロ根性を発揮してどんなに落ち込んでいてもデートコースに全力投球するはずだ。しかし、それをしてくれない。これはデリヘルの女の子と客、それ以上の関係になったと山岡さんは判断したらしい。素の状態を出してくれたと判断したらしい。 「やっと俺にだけそういう一面を見せてくれたわけよ。そういうの含めてデートがよりリアルになったなあって感じたよ」  つまり、本来の恋人同士のデートであっても何も楽しいことばかりではなく、時にはどちらかの体調や気分が優れないこともあるし、喧嘩もすることもあり、すべてが理想的に上手くいくものでもないらしい。そういった意味でこれはリアル。この状態はリアルなデート、ということらしい。料金を払っているんだからテンション高く対応すべきとなるのは貧乏人の考え、痩せた考えらしい。
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「るね」ちゃんの落ち込みの原因とは?
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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