上原浩治はなぜ毎日ブログを更新するのか
ボストン・レッドソックスの上原浩治は2009年の渡米以来、ほぼ毎日ブログを更新している。2008年12月のブログ開設以来、投稿されたエントリーの数は1200を超える(http://www.koji-uehara.net/all.html)。
今季の上原が担うクローザーというポジションは、いつ出番があるかわからないため、急な登板に備え毎日準備をしなければならない過酷な仕事。そうでなくともメジャーリーグは、ただえさえ過密日程に遠距離移動が続き、シーズン中は息つく暇もない。
そんなハードで慌ただしい日々の中、上原はなぜブログを書き続けるのだろうか?
ボストンのローカルスポーツメディア『WEEI』のアレックス・スパイアー記者は先日、自身の記事で上原の“ブロガー”としての顔を紹介。同記者は、今季レッドソックスの大躍進を牽引した上原の“ブログ哲学”に迫った。
記事の中で上原は、通訳を介して自身のブログに対する考え方を述べている。
「自分が担うリリーフ投手というポジションは、あまり(メディアを通じて)公にさらされない。リリーフに転向してから、自分のニュースを見なくなった。だから自らの手で、自分の仕事をファンに伝えようと決めた」
今でこそメジャー屈指のクローザーとして米国での知名度も高い上原だが、今季途中までは中継ぎを任されていた。中継ぎは、試合の行方を左右する極めて重要な仕事でありながら、先発投手や野手に比べメディアには取り上げられにくいポジションだ。
上原は、このポジションの過酷さを「抑えて当たり前、打たれたときだけ記事になる」と表現する。今季開幕前には、WBC日本代表のエースと期待された田中将大(楽天)が不調で中継ぎに転換され、それを一部マスコミが「中継ぎ“降格”」と報じたことに対し、ツイッターで怒りを爆発させたこともあった(「ダル、上原…MLB選手に軽んじられる日本メディア」⇒https://nikkan-spa.jp/435182)。
そうした報道の現状を打破するため、抑えたときも打たれたときも自分の言葉で自分の仕事を伝えようというのが、上原の試みだ。
登板した日のエントリーでは、その日対戦した全打者に対するピッチングを丁寧に振り返る。たとえば「三人目は、スプリットで二ゴロ。このシリーズで一番当たってる打者。三振はなかなかしないことは分かってたから、コースにきちんと投げようと心がけた」(10月10日のエントリーより抜粋)といった具合だ。
また、先のスパイアー記者の記事によると、上原はブログという形で自身のパフォーマンスの“アーカイブ”を残しておくことが、いつか自身が指導者になったときの助けになるとも考えているようだ。確かに、現役時代から自身の考えを言語化する習慣を身に付けておくことは、間違いなく将来のコーチングにも役立つだろう。
上原のブログは自身のオフィシャルサイトだけでなく、MLB日本公式サイト『MLB.jp』ともコラボし、全投球映像付きのコラム形式で配信されている(http://gyao.yahoo.co.jp/mlb/columnueharalist/)。一流アスリートのプレー映像を観ながら本人の解説を読むことができるという、極めて画期的なコンテンツだ。
上原はブログだけでなく、ツイッターでも頻繁にファンとやり取りを交わすなど、自らメディアとなってファンに情報を発信する。メディアが伝えないことを、自分で伝える。ソーシャルメディア時代における次世代アスリートといえよう。
4年ぶりにプレーオフを戦うレッドソックスは、すでにタンパベイ・レイズとの地区シリーズを勝利し、現地12日からリーグ優勝決定シリーズに臨む。全米注目の大舞台における上原のピッチングを、是非本人の“セルフ解説”と共に堪能してみては?
<取材・文/内野宗治(スポーツカルチャー研究所)>
http://www.facebook.com/SportsCultureLab
海外スポーツに精通したライターによる、メディアコンテンツ制作ユニット。スポーツが持つ多様な魅力(=ダイバーシティ)を発信し、多様なライフスタイルを促進させる。日刊SPA!ではMLBの速報記事を中心に担当
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