グラハムとバックランドの微妙な距離――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第23回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第23回


 ボブ・バックランドは“無印”の若手レスラーとしてWWEのリングに登場した。身長6フィート1インチ(185センチ)、体重230ポンド(105キロ)のバックランドは、ブルーノ・サンマルチノやペドロ・モラレスといったニューヨーク・ニューヨークのかつてのスーパースターたちと比較すると、かなりすらりとした体つきをしていた。

グラハムとバックランドの微妙な距離

バックランドとグラハムは、いずれもWWEの東海岸エリアをツアーしていたが、なぜかなかなかリング上での顔合わせは実現しなかった。ビンス・シニアは次期チャンピオン候補バックランドを徹底的に“隔離”したのだった。(写真はWWE会場売り用プログラム表紙)

 サンマルチノがイタリア系、モラレスがプエルトリコ系といずれもニューヨーカー好みのエスニック系ヒーローだったのに対し、金髪で青い瞳のバックランドはいわゆるオール・アメリカンだった。

 リングコスチュームは、無地のショートタイツと無地のリングシューズ。ちょっと意外な感じだが、ビンス・マクマホン・シニアはベビーフェースのスターにブレッド&バター――いちばんオーソドックスで質素な食べもの、あるいはモノのたとえ――の素朴なイメージを求めた。

 プロレスラーのユニフォームはあくまでもショートタイツとリングシューズ。長髪やウエーブのかかった髪、口ひげ、派手なガウン、ロングタイツなどはあくまでもヒールのためのアイテムであるというのがビンス・シニアの持論である。

 バックランドが初めてマディソン・スクウェア・ガーデンのリングに登場した1977年は、ジミー・カーター大統領政権が誕生し、映画『スター・ウォーズ』のシリーズ第1作(現在の“エピソード4”)が公開された年だ。

 第4次中東戦争と石油ショック(1973年)、“ウォーターゲート事件”によるリチャード・ニクソン大統領の失脚(1974年)、サイゴン陥落―ベトナム戦争終結(1975年)と苦悩の70年代前半を歩んだアメリカがクリーンでフェアな新しいイメージを模索した時代だった。

 ビンス・シニアは、バックランドを徹底的に“隔離”した。5月のガーデン定期戦でマスクマンのジ・エクスキューショナー2号と対戦してニューヨークでのデビュー戦を白星で飾ったバックランドは、それから4カ月後の9月定期戦でガーデンでの第2戦をおこなった。

 メインイベントの“スーパースター”ビリー・グラハム対ダスティ・ローデスのWWEヘビー級選手権のふたつまえの第5試合に出場し、中堅どころのラリー・シャープとシングルマッチで対戦しフォール勝ち(1977年9月26日)。

 それからさらに3カ月後の12月のガーデン定期戦では全9試合中、第5試合というポジションで日系アメリカンのミスター・フジと対戦し、のちにバックランドのトレードマーク技となるアトミックドロップでこれを一蹴した(同12月19日)。

 この日のメインイベントでは、WWE王者グラハムがミル・マスカラスの挑戦を受け、グラハムが出血多量でドクターストップ負けを喫した(タイトルマッチ・ルールにより王座移動はなし)。試合終了後、次回ガーデン定期戦(1978年1月23日)のメインとしてグラハム対マスカラスのリターン・マッチがアナウンスされた。

 この時点でのバックランドのホームリングはNWAフロリダ地区で、バックランドは2カ月に一度ずつのペースでフロリダからニューヨークに“出張”してきて、東海岸エリアの中都市でWWEのテレビ番組用のTVマッチのタメ撮りをくり返した。ビンス・シニアは、映像としてのバックランドをニューヨーカーのサイコロジーに訴えかけた。

 いっぽう、WWEチャンピオンのグラハムと“挑戦者”サンマルチノの定番マッチはガーデン定期戦をはじめ、ボストン、フィラデルフィア、ボルティモア、ピッツバーグ、ワシントンDCでの“ロードショー公開”をたてつづけにソールドアウトにしていた。42歳のサンマルチノは、王座奪回に執念を燃やす元チャンピオンいうよりも、どちらかといえばゲスト出場の“第三者”としての立場をエンジョイしはじめていた。

 それまで微妙な距離を保っていたグラハムとバックランドがようやくリング上で接触するのは、翌1978年1月のガーデン定期戦だった。時計の針が動きはじめていた――。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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