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親会社襲撃、農民工の自殺テロ…中国で債権回収が激化。経済先行き不安化で

 1月5日、中国建設最大手・中国中鉄の総裁が自宅マンションから飛び降り、自殺した。『南方都市報』によると、総裁は自社が抱える巨額の負債や支社で従業員への賃金不払いに関し、ストレスを抱えており、うつ状態にあったという。 中国, 労働者, 社会 実は今、中国では借金や売掛金、未払い給与の取り立てが激化しており、債務者を悩ませている。昨年12月末にも、広西チワン族自治区悟州市で売掛金の支払いを拒んだ建築会社に対し、下請け会社の社員たちが襲撃する事件があった。双方合わせて20人以上の大乱闘に発展したという(『広西日報』)。  さらに『新安晩報』(11月29日付)によると、安徽省合肥市で、家賃の支払いをめぐり大家が入居者を刺殺するという事件も起きた。  広州市で日本料理店を経営する松田尚さん(仮名・42歳)も話す。 「大家による飲食店のロックアウトは日常茶飯事。特に昨年11月くらいから増えた。みんな家賃を滞納してるんです。先日も、近所のパチモンのスタバで、大家が雇った青年3~4人と角材を手に店主を追っかけていましたよ」  こうしたなか、旧正月の前に、労働者による未払い賃金支払いを求める動きは活発化している。1月3日、甘粛省蘭州市の高層ビルの屋上で、6人の農民工が勤め先の建築会社に賃金支払いを求め、「拒否するなら飛び降りる」と自殺を宣言。この一件は会社側が折れて解決したが、同様の手段で未払い給与を回収しようとする労働者が全国で続出しているのだ。こうした背景について、ポータルサイト『新浪』の東京特派員・蔡成平氏は次のように話す。 「中国では、『支払いはどれだけ先延ばしするか』が経理担当者の腕の見せどころと言われてきた。しかし、倒産件数の増加や経済の先行き不安から、『債権は早めに回収』という動きがそれ以上に強まり、回収する側も本気になってきた。インフレ率が高く、タンス預金ではどんどん価値が目減りしてしまう中国では、企業や個人はみな、収入や貯蓄に見合わない金額を不動産や投資信託などに突っ込んでいる。賃金や家賃の滞納が発生すると、とたんに経営や生活が苦しくなってしまうため、とにかく必死なんです」  一方、上海市のPR会社に勤める橋田慶太郎さん(仮名・43歳)の身近にも、文字通り「貸し倒れ」となってしまった人がいる。 「彼は月収7万円のサラリーマンでありながら、オフィス用物件を2室も購入して貸し出し、ローン返済と給与でギリギリの生活をしていた。ところが入居企業のひとつが倒産し、次の入居者が見つかるまで生活費にも事欠くように。ついに先日、栄養失調になって病院に運ばれました」  しかし、手元に現金がないのは債務者側も同様だ。仏山市で貿易業を営む林田岳男さん(仮名・49歳)は話す。 「町工場を経営している知人は、給料日の直前になると、自分や会社名義のクレジットカードを知り合いの飲食店に持ち込み、架空の支払いをし、現金で返金してもらう『ショッピング枠の現金化』を行っている。銀行が中小企業や個人に貸さない中国では、ありふれた資金調達方法なんだそうです」  債権者から債務者までが自転車操業状態とは、中国経済の崩壊も近いのかもしれない……。 <取材・文/奥窪優木> ※写真はイメージです 週刊SPA!連載 【中華人民毒報】 行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

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