「パソコンもカメラも買い直すしかない」――46歳のバツイチおじさんはインドのシリコンバレーを目指した〈第29話〉
宿に到着する頃には23時を超えており、お腹が空いたので近くの飲み屋に出かけ、腹ごしらえと一杯飲みをすることにした。
気分は「吉田類の酒場放浪記~インド編~」だ。
夜の街をウロウロしていると、一軒の薄暗い立ち飲み屋を発見した。きっと酒場だ。インドで酒を飲むのは宗教的な理由から厳しいと聞いていたが、人目につかないとこでひっそりとオープンしているのか……。
店にはどこか背徳感がみなぎっていた。妙に薄暗い。
中に入ると目つきの悪い男たちがこちらを睨みつけてきた。
外国人がかなり珍しいようだ。
俺は笑顔で微笑み返し、ビールを注文した。
周りの男たちのほとんどはウィスキーを飲んでいる。
誰も話しかけてこない。
俺「この店、何時までやってるんですか?」
店員「……」
あまり歓迎されているムードではない。
異国の地でも酒場の雰囲気ならなんとなくわかる。
しょうがないので、とっとと切り上げて帰ることにした。
その店でビールを買うことができたので、宿で一杯やるため買ってから帰ることにした。すると、店の定員が――。
店員「おい、日本人。酒を持って帰るんだったら隠して持って帰れよ」
俺「なんで? お酒持ってたらやばいの?」
店員「この時間はやばい。警察に見つかると面倒くさいことになるぞ」
屋台でフライドライスを買い、お酒を隠しつつ宿に戻っていると、暗い一本道に差し掛かった。
「ん? なんかおかしい」
暗闇の中から、何かがこちらを見ている気がした。
ただならぬ気配だ。
俺は足を止めた。
道路の先を見渡すと、100メートル先で複数の獰猛な男たちが待ち構えているように感じた。
「どうしよう…逃げようか……」
しかし、宿に戻るにはこの道を通るしかない。
この道を突っ切り右に曲がれば宿だ。
あの男たちは、ただお喋りしているだけかもしれない。
俺は早足で突っ切ることにした
「もし襲われたらビール瓶で殴り返そう」
俺はビール瓶をぎゅっと握りしめた。
そして覚悟を決め、宿に向かって歩き始めた。
目を合わさないように下を向き、息を殺して歩く。
男たちがたむろしている場所まで、その距離30m。
まだ男たちの姿は見えない。
すると突然――。
「ガウガウガウガウガウガウ!」
突然、10匹くらいの野犬の集団が襲ってきた。
暗闇の中で蠢いていたのは、男たちではなく野犬だった。
野犬に噛まれると狂犬病で死ぬ可能性が高い。
ビール瓶を振り回し「やめろ!」と大声を出し、距離をとった。
俺は野犬を睨みつけた。
犬たちは毛を逆立て、ウーと唸り声を上げている。
目線を外すと襲われる。
俺の本能がそう言っていた。
気づくと、宿までの曲がり角は俺の背後にあった。
俺はビール瓶を振り回しながら、静かに後ずさりをした。
そして、道端で拾った石を反対方向に投げ、犬が一瞬よそ見をした隙に、静かに後ろ走りし距離をとった。犬は相変わらずウーと唸っていたが、距離が5メートル以上あくと、急に攻撃的な態度をやめた。
俺は、隙を見て少しずつ距離を取り、角を曲がると走って逃げた。そして、全速力でゲストハウスに駆け込んだ。
「危なかった」
その時だった。宿の外で野犬同士が争う声が聞こえた。
おそらく10匹ぐらいの野犬が1匹の犬を襲っている。
襲われた犬は最後に悲痛の声をあげた。
おそらくとどめの一撃を喰らったんだろう。
断末魔のような叫びだった。
勝った野犬集団は全員で遠吠えをしていた。
「怖いよここ。俺があの犬だったらやばかった……。ここ本当にインドのシリコンバレー? ITシティの割には野性的すぎるよ」
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ