「パソコンもカメラも買い直すしかない」――46歳のバツイチおじさんはインドのシリコンバレーを目指した〈第29話〉
若者②「どうも、ガンジャマン」
おっさん「おう!」
いや、「おう!」じゃなくて。
若者③④「ガンジャマーン ハッピーかい?」
おっさん「おう!ハッピーだよ」
どうやらこのおっさん、街の人にガンジャマンと呼ばれてるらしい。
そして、その名前を全力で受け入れているらしい。
つか、どんなあだ名なんだよおっさん……。
もう一度言うが、ガンジャとはマリファナのことである。
彼は原っぱの大きな木の陰に俺を連れて行った。
そこには6人ぐらいの男たちがたむろしていた。
男たち「どうも、ガンジャマン!」
おっさん「おう! こいつは俺の日本の友達だ」
俺「こんにちは」
俺は全員と握手をした。
真面目な高校生や大学生の中に、タトゥーだらけの地元のワルみたいなのも混じっている。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
おっさんはポケットの中からタバコの葉っぱのようなものを取り出した。
This isガンジャだ。
おっさんはそれを丁寧に手でこね、混ぜ、ローリングペーパーを巻き始めた。
まるで紙たばこだ。
そして、それにライターで火を着けた。
おっさんが吸い終わると、それを右側の人に回した。
ガンジャ入り紙たばこは、ぐるりと一周し、やがて、俺の順番が回ってきた。
おっさん「やれよ。友情の証しだ」
俺「悪い。俺、やらない」
すると、皆はあっさりそれを理解し、受け流した。
特に強要はしない。
一本吸い終わると、別の人のガンジャが回ってきた。
今度も断ると、もう二度と俺のとこにそれが回ってくることはなかった。
その友情の儀式のようなものが終わると、おっさんは皆と別れを告げ、元の道に戻った。
おっさん「な、こっちじゃガンジャ、高校生も吸うだろ」
俺「そうみたいだね」
おっさん「だろ。どうだい、日本の友達、今夜、俺の家でガンジャパーティーやらないか? 友情の証しとしてお前を招待するよ」
このおっさんは、酒を飲むような感覚でガンジャを勧めているのかもしれない。
きっとこの地域の文化なんだろう。
かつて台湾の少数民族を取材した時、仲良くなるためにビンロウという木の実の紙たばこを食べたことがある。あれと同じなんだ。
でも、やっぱり……。
マリファナは違法だ。
まして、初インドでおっさんの家のガンジャパーティーはさすがに危険すぎる。
だってあいつのニックネームは・・・・・・
“ガンジャマン”
そんな陽気すぎるニックネームの人の家に行くなんて、どう考えても危険だ。
地元のワルたちも認めるガンジャのエキスパートの家なら、どんなありえないおもてなしが待ってるのか、想像すらつかない。
俺「兄弟! ごめん。俺、やっぱやめとくよ」
かつてタイのバンコクでイラン人が使ってた「ブラザー」つまり「兄弟」という言葉を使って、感謝と敬意を込めてお断りした。
おっさん「……」
俺「日本ではダメなんだ」
おっさん「…そうか」
するとおっさんは俺の手から水の入ったペットボトルを取り上げ、ぐびっぐびっと一気に飲み干した。そして、紙に自分の電話番号を書き、俺に渡した。
おっさん「楽しかったよ」
二人は握手をし、お別れをした。
おっさん「またな、なんかあったら俺を頼れよ、兄弟!」
少し感動した。
このおっさんは間違いなく“漢(おとこ)”だ。
おっさんが兄弟と言ってくれたことで、友情の印を無粋に断ったことを少し後悔した。
なんか申し訳ない気持ちになった。
でもな~
やっぱり俺は、今でもこのおっさんがいい人なのか悪い人なのかわからない。
「インド、なんだか深すぎる」
その時、「世界一周花嫁探しの旅」をしていることなんて、頭の片隅にもなかった。
やはり、漢との語らいは楽しい。
そして、ふとこう思った。
今まで花嫁候補との出会いは無残にも散ってきたけど、それは俺が「漢」として足りてなかったからではないか。この旅を続けるうえで、買い戻したデジタルガジェットと同様、俺の「漢」としての魅力も必要不可欠ではないのか。
俺はこの旅で忘れていた何かを思い出した。
俺はインドで“漢”を磨くことにした。
次号予告『漢を磨くためにバツイチおじさんが向かった先とは? 次なるマドンナの登場も!?』を乞うご期待!
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