更新日:2016年09月04日 20:16
スポーツ

本気でW杯に行きたいのか。改めて問われる、サッカー日本代表としての覚悟

試行錯誤し続けた75分間

「周りが試合前から良い声をかけてくれていたので、それほど緊張はしなかった」という大島だが、やはりある程度連携が完成されたチームに後から入っていくのは容易なことではない。特にビルドアップの際には味方との呼吸をより密に合わせる必要があるため、味方のコーチング、あるいは仕草や表情、ポジショニングなどさまざまな情報を元に、自分が今どういうプレーを求められているかを考えなければならなかった。 「後ろからビルドアップする時に、CBの選手は(ボランチである大島に)どこまで下りてきて欲しいのかとか、そういったことを試合の中で探りながら調整していきました」(大島)  前述した前半19分の失点は、大島と酒井宏樹との間でまさにその呼吸がズレたことから生まれている。大島が酒井の少し前方にパスを出したのに対し、酒井はボールとフラットなラインでパスを受けようとした。縦に運ばせようとした大島と、一度落ち着けてリズムを作り直そうとした酒井の意図が合わなかった。翌日の各紙の記事を見る限り、このシーンについて「大島のパスミス」と書いた記者が多かったようだが、出し手の大島だけのミスではない。大島自身が周りの選手たちのことをより知らなければならないが、それと同時に、周りも大島の長所や見えている画(え)を感覚として掴む必要がある。  現在の日本代表は、主力がもう何年も変わっていない。前回大会の予選やブラジル本大会、今年初めに開催されたアジアカップなどを経験した選手同士であれば互いのクセやプレービジョンをある程度は共有できているが、大島と既存メンバーとの間の相互理解は当然まだ無い。 「周りの選手たちの要求や意見を聞いて修正するのはもちろん大事ですけど、同時に僕も自分がどうしたかったかをしっかり相手に伝えて、お互いにすり合わせていかないといけない。そこがまだ足りないなとは思いました」(大島)  試合後のコメントや表情からは、初めてのA代表のピッチで大島がいかに手探りでプレーしていたかが伝わってくる。味方がボールを持ったときにどのタイミングで顔を出すのがベストなのか。パスを出す先の味方は相手マーカーの裏で受けたいのか、それともボールとフラットな位置で受けて一度落ち着けたいのか……。都度調整しながら合わせようと試みたが、試行錯誤の連続は大島から徐々に余裕を奪っていった。川崎で時折見せる思い切りの良いプレーは鳴りを潜め、自然と“置きに行く”プレーが増えた。不完全燃焼のまま、75分に途中交代。悔しいA代表デビューとなった。

指揮官の期待値には届かなかった積極性

 ハリルホジッチ監督は記者会見で、「なぜこの選手を選んでしまったのか、自分でも疑問に思っている。しかし、他に良い選手がいなかったのも理由だ」と語った。確かにA代表のキャップを持たない選手を先発させることはリスクが大きく、「直前まで迷っていた」とも明かしている。  だが、柏木と比べ大島が周囲との連携面で不安があるのは試合前から分かり切っていたことだ。起用したハリルホジッチ監督自身も、大島が柏木ほどチームの潤滑油になれるとは思っていなかっただろう。ただ、指揮官は「縦へのスピードや積極性も含め、もうちょっと期待していた」というコメントも残している。柏木のようにタクトを振るうのを期待したというよりは、千載一遇のチャンスを得た大島が「ここで俺がやってやる」と奮起するのではないか。積極的にチャレンジする姿勢を見せて、新たな風を吹かせてくれるのではないか。おそらくその辺りを「もうちょっと期待していた」のだろう。連携面の不安から、考えてプレーする時間が長くなった。いつも以上に多くのことに意識を向けながら、その中で本来の自らの良さを出すのは容易ではないが、この日の大島は迷ったまま、本来の実力を発揮しきれないまま試合を終えてしまった。そんな大島の様子を指揮官は「こういう試合で恥ずかしさを見せたところがあった」と表現した。  象徴的だったのが、前半立ち上がりのプレーだ。高い位置でボールを持って前を向いた大島がドリブルでピッチ中央を駆け上がった。対応が遅れたUAEは、岡崎、清武が猛然とゴール前に走り込む中、誰が大島に寄せるかを決め切れず躊躇し、大島の前にはぽっかりとスペースができた。 「打て!!」  筆者の後方、メインスタンド2F席の観客も多くが一斉にそう叫んだ。しかし、大島は左前に走り込んでいた清武へのパスを選択。シュートには至らなかった。 「打っても良かったのかもしれませんが、(利き足と逆の)左足の前にボールがあったので、より確率の高い方を選ぼうと思いパスを選択しました」(大島)  そのプレー選択は確かに論理的だ。まだボールに多く触れたわけではない立ち上がりの時間帯、ペナルティエリア外からの逆足でのミドルシュートがゴールに収まる確率はそれほど高くないかもしれない。しかし、アジア最終予選の重要な初戦、しかも立ち上がりの時間帯だったことを考えると打ってみても良かった、というよりも打つべき場面だったのではないだろうか。確率が低そうなプレーであっても、ゴールへの強い意識を見せることが相手へのプレッシャーにもなる。また、 “新入り”である大島が強気なプレーを見せることが、チームメイトへの鼓舞にもなったはずだ。試合後、大島は「僕が何かやるという立場でも無いので、僕は僕らしくやろうと思った」と語ったが、ピッチに立つ以上遠慮している場合ではない。論理的に考え、より成功確率の高いプレーを選択することはもちろん重要であるし、その点でのクレバーさは大島の持ち味でもあるが、W杯に本気で出場したいと思うのなら、より強い気持ちを持ってピッチに立つ必要があるはずだ。
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改めて問われる、代表としての覚悟
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フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129

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