ビンスが“モントリール事件”をセルフ・パロディ――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第300回(1998年編)
さらなる異常事態は試合終了のゴングから数分後に起きた。入場ランプ付近で試合を見守っていたビンス・マクマホン、パット・パターソン、ジェリー・ブリスコ、サージャント・スローターの“悪の首脳部”が本部席からチャンピオンベルトを強奪し、そのままバックステージに待たせておいたリムジンに乗り込んでアリーナから逃走した。
ストーンコールドがビンスを追いかけたが、ベルトを手に高笑いするビンスの姿がビデオ・スクリーンに映し出され、これがそのままPPVのエンディングになっていた。TV的にはスリリングな結末ではあったが、ライブの観客にとってはかなり消化不良のラストシーンだった。
連続ドラマのストーリーラインとしては(1)“トリプル・スレット”という試合形式はビンスがストーンコールドの腰からチャンピオンベルトをひっぺがすために用意したワナであり(2)アンダーテイカーとケインはストーンコールドからフォール勝ちをスコアしたが、結果的にチャンピオンになることはできなかった。
ビンスはこの日、PPVのプレビューとして生中継された“サンデーナイト・ヒート”を含め合計4回、インタビュー・シーンに登場した。
「前回、われわれがカナダでPPVを開催したときは……」とコメントし、“モントリオール事件”という単語を使わずに“モントリオール事件”をネタにし、さらに「今夜、ストーンコールドはチャンピオンとしてこの建物から出ることはない」と宣言した。
ビンスの予告どおりストーンコールドは王座から転落し、前代未聞の“ベルト持ち逃げ事件”により連続ドラマはto be continuedとなった。ビンスがリムジンで走り去っていくラストシーンは“モントリオール事件”のセルフ・パロディだった。
ビンスとブレット・ハートの確執と“モントリオール事件”に至るまでの1年間を克明に描いたドキュメンタリー映画『レスリング・ウィズ・シャドウズ』のビデオ版がリリースされたのはこの年の10月。ビンスは自分がコントロールできない映像が世に出てしまう現実にコトバにならない恐怖をおぼえていたという――。(つづく)
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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