トヨタの自己資本比率が少ない理由
自己資本50%以下で、さらに悪い状況に置かれるのが、
債務超過状態です。
これは例えば、融資の合計が10億円あるのにも関わらず、資産が8億円しかない(出資された金額を全て使い切って出資額がマイナスの状態になっている)ことを指します。この場合、銀行などは、資金を貸し付けても返済の可能性が非常に乏しいと考えますから、形式基準として融資を行わないのが普通です。結果、会社側はこれを回避するために、資産を大きく見せるようになり粉飾決算が行われてしまうわけです。
▶︎良い借金「債務超過なし」
▶︎悪い借金「債務超過あり」
基本的には、自己資本比率が50%を超えたほうが優良な企業と言われています。
ですが、たとえば日本を代表する
トヨタ自動車の自己資本比率は、38.1%です。これは、本業の自動車事業では、融資が少ないものの、金融事業(トヨタファイナンスなどのリース事業など)を銀行などからの融資に頼っていることが理由です。しかし、トヨタはこの金融事業で営業利益を約3400億円も上げているんですね。
借金が多いことが必ずしも悪いということではないという好例と言えるでしょう。
そもそも他人資本に頼ることは良いことなのでしょうか?
自己資本が少なく他人資本に頼ることは、融資が継続しない、返済が滞るというリスクが高まる一方で、うまく利益を上げることができれば、大きく利益を生むことができます。
この発想で日本で一番勝負を掛けているのが、
ソフトバンクグループです。ソフトバンクグループの自己資本比率は
12.6%。同業のNTTドコモが
73.5%ですから、全く次元が違います。
自己資本比率が高いということは安全運転を行なっているともいえますが、同時に、会社として勝負をしていないとも言えるでしょう。これが両社の社風の違いに表れているというのは想像に難くありません。
ソフトバンクとドコモは何が違ったのか
実際に、2006年にソフトバンクがボーダフォンを買収したころ、孫正義社長が絶対的王者のドコモを抜くと決算発表で言っていた時は、メディアも含めてほどんどの人が夢物語だと言っていました。
しかし、今のソフトバンクは売上高9.2兆円、営業利益1兆円の会社にまで成長しました。これは、ドコモの売上高4.5兆円の営業利益0.8兆円を大きく凌いでいます。孫社長があらゆるところから資金を調達し、その資金を事業につぎ込んできた結果と言えます。
中小企業はいくらまで借金してもよいのか
とは言え、ソフトバンクは上場企業であり、借入金以外にも多角的に調達の手段があることから、中小企業の勝負ができる”良い借金”とは少し数値感覚が異なります。そこで、日本の中小企業の”良い借金”の基準を考えてみます。
中小企業の「良い借金」の限度額は、月商の4ヶ月以下が一つの目安です。日本の中小企業の全国平均(製造業)の月商が3700万円。この4ヶ月分と考えると1.5億円程度の借入となります。
全国平均の税引後利益が800万円で、減価償却が1300万円なので、借入金の返済余力が年間2100万円程度と想定され、7年もかからない程度で返済ができれば、「安全」という計算ですね。
▶︎良い借金「借入月商4ヶ月以下」
▶︎悪い借金「借入月商4ヶ月以上」
私が代表を務める会社が投資検討する際には、支払利息に意外と無頓着で高金利を支払っている経営者が少なくありません。昨今の低金利時代において、会社の借入全体に対して利息を年利で2.5%以上支払っている先は、金融機関への交渉を行うべきです。
この基準を超えてでないと会社が借り入れることができない状況にあるとすれば、それは悪い借金を背負っていると言える。ここ数年は、アベノミクスのマイナス金利の影響も受けて、金融機関はタダでも貸したい状況にあります。1%を切る貸出金利も当たり前の状況であることから、通常の金融機関からの借入を借り換えすれば、2.5%以下にならなければ借入余力がない、つまり何か問題があるということです。
▶︎良い借金「平均利息2.5%以下」
▶︎悪い借金「平均利息2.5%以上」
借入金にも”質”がある
では、実際に何が問題なのか?
金融機関の貸出は、大きく「資産」と「事業性」を見て行われます。
古くから日本の金融機関は、資産を評価して貸し出す不動産担保付き融資の形がほとんどでした。しかし昨今、金融庁より、事業性を評価して貸し出すという指導も進んでおり、事業内容を見て将来的に利息の支払いや返済が可能なのかを見極める貸し出しも増えてきています。
借り手としても当然、事業収益を見合いにした借入は「良い借入」と言え、事業収益ではなく不動産担保や個人保証をベースとした借入は、「悪い借金」に近いと言えるでしょう。