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てるみくらぶ破産にみる、会社の「良い借金」「悪い借金」とは?

SHARPはどんな借金をしてしまったのか

SHARP この事業性評価を読み誤って返済ができずに、身売りを余儀なくされてしまったのが、昨年台湾企業鴻海精密工業に買収されたSHARPです。  SHARPの歯車が上手く噛み合わなくなってきたのは、2009年稼働の堺工場に4000億円もの投資を行なったからと言われています。実際、2004年には4000億円ほどしかなかった有利子負債が、2009年には、倍の8000億円になり、2012年には1兆円を超えてしまいました。  一方、返済余力である当期純利益+減価償却費は、2500億円(2004年)→1000億円(2009)→100億円(2012年)と返す見込みのない借入が膨らんで言った結果、鴻海精密工業からの資金援助がないと立ち行かなくなってしまったのです。  つまり、事業収益を上げるはずであった堺工場が、液晶テレビの単価下落など市場の変化を大きく受け、事業収益を上げられなくなり、これを見合いに調達した借入を返済することができなくなったのです。

社長の自宅を担保に借りた借金はアリなのか

 SHARPは大企業における「悪い事業収益見合いの借入」の例でしたが、中小企業のそれはどのようなものでしょうか。  中小企業に当てて考えると、個人保証や不動産担保(特に個人の自宅など)を見合いに借入を行うことがそれに該当します。  資金調達は、事業の収益で返済することが基本なのに、経営者の個人保証や自宅を担保に借りた資金は、どうやって返していくのか普通では説明できませんよね。  売却すれば借入を返済できる資産があるから金融機関は貸し出しているわけです。つまり、少しでも事業が上手くいかなければ、その資産を売り払って返済できる前提で貸し出しを行っているわけです。社長の自宅(資産)は売り払えば必ず返済できる額になるかと言えば、疑問符がつかざるを得ません。  3年前に「経営者保証に関するガイドライン」というものが中小企業庁と金融庁主導で発表されました。中小企業の経営者が金融機関に差し入れている個人保証を締結する際、ガイドラインを定めようというものです。  個人保証のせいで、社長の人生そのものがトラブルになることを防ごうというわけです。というわけで、「よい借金」と「悪い借金」を分類すると以下のようになります。 ▶︎良い借金「事業収益見合いの借入」 ▶︎悪い借金「事業収益見合ではない借入」 ▶︎良い借金「保証・担保が入っていない借入」 ▶︎悪い借金「保証・担保が入っている借入」

「借りやすい借金」は危険。個人から金を借りてる会社は一番ヤバい

 上述した個人保証の問題は、中小企業の経営者にとっては、かなり大きな問題でした。が、このガイドラインによって、社長は会社の借金を支払うために人生をかける必要がなくなったので、積極的に他人資本を活用して事業展開を図れるようになったと言えます。  一方で、このガイドラインに乗らない借入が一番悪い借金となります。  それが、個人からの借入です。金融機関などの法人(プロ)からの調達は、合理的な判断で調達できるので、調達に時間はかかりますが、返済できない時に合理的に判断されます。他方、個人(素人)からの調達は、非合理的(個人との関係や信頼)で調達するので、調達に時間はかかりませんが、返済できない時に非合理的に(感情に)左右されることとなります。

科学雑誌『ニュートン』は何が悪かったのか

 例えば、上述のガイドラインに沿って借入金の整理をすれば、自己破産せずとも一切の借金を免れることができます。しかし、知り合いの経営者からお金を借りると、心情的な理由から、法的にはクリアになった借入も個人間の恨みつらみをかってしまう恐れがあります。「俺が貸した金、どうすんだよ…!」となるわけですね。
ニュートン

Newtonホームページより

 つい先日、ニュースを賑わせた科学雑誌『ニュートン』を発行するニュートンプレスがまさにその罠に陥ってしまいました。経営者は逮捕され、会社は民事再生をかけざるを得なくなってしまいました。  実は、科学雑誌の『ニュートン』自体は業績は悪くありませんでした。折からの雑誌不況の中で、経営者は新規事業の思考が高く、iPad向けの教材を扱う会社を作り、開発資金に数十億円をかけたといいます。しかし、事業収益を生み出さず資金繰りが悪化したことからニュートンの定期購読者から出資を募ってしまったのです。これが出資法違反として逮捕されてしまった。

てるみくらぶも早く事業を畳めばよかった

 このように、個人(素人)から資金を調達するのはある意味簡単ですが、安易に個人から借入すると思わぬ落とし穴に落ちてしまうリスクもあります。  よって、プロから借り入れることができなくなった時点で、事業としての存続価値が著しく乏しくなっているということを自身に言い聞かせ、合理的に事業を畳むという選択肢が重要とも言えます。まさに、冒頭に記した「てるみくらぶ」も、早期に事業を畳む意思決定を行なっていれば、このように社会全体に迷惑をかけずに済んだのです。 ▶︎良い借金「法人(プロ)からの借入」 ▶︎悪い借金「個人(素人)からの借入」 【三戸政和】 日本創生投資代表取締役CEO。日本最大級のベンチャーキャピタル、ソフトバンク・インベストメントにて、国内外の投資先に経営参画しながら、成長戦略、株式公開支援、M&A戦略、企業再生戦略などを行う。その後、兵庫県議会議員経て現職。同志社大学卒業。
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