36歳バツイチ“ドク”のノー・ターニング・バック――フミ斎藤のプロレス読本#047【全日本gaijin編エピソード15】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
もうどこか遠い南の島へでも引っ越してのんびり暮らしたい。スティーブ・ウィリアムスはそれがいちばんいい選択なのではないかと考えていた。
ずいぶん時間がかかってしまった離婚裁判にひと区切りがつき、住んでいた家を売却し、ライフワークになるはずだったスポーツクラブ“ボディー・ブラスター・ジム”の権利も手放した。
長女ストーミーちゃんと長男ウィンダムくんは母親といっしょに住むことになった。子どもたちはダディとマミーのあいだになにが起こっているかを知っているようだった。
ルイジアナは、ウィリアムスがホームタウンにしようとした土地である。生まれてからハイスクールを卒業するまでの成長期を過ごしたのが中西部コロラドで、大学時代の5年間がオクラホマ。プロレスラーになってからの10数年間は、オクラホマよりもさらにサウスのルイジアナを生活の場に選んだ。
ウィリアムスは、いつのまにか南部なまりのイングリッシュを話すようになっていた。
とにかく、環境を変えてしまうことからはじめるしかない。協議離婚が成立して、財産らしきものを公平に半分ずつにしても、かんじんのハートの部分はちっともすっきりしない。ルイジアナには元ワイフとの共通の友人、知人があまりにも多い。
身のまわりの整理・整とんをしているうちに、まる1年もプロレスを休んでしまった。あそこに住んでいるうちは、すべてがうまくいっていたころと同じリズムでしか時間は流れてくれない。
コロラドは雪国で、ルイジアナはじめじめした湿地帯。どうせはじめからやり直すのならば、できるだけ遠いところがいい。それにこんどはできるだけ気候のいい土地で暮らしてみたい。知り合いがあまりいないところだったらなおいい。
南の島でのんびりやろう。プロレスのことだけで頭のなかをいっぱにしよう。“ドクター・デス”は、アスリートとしてのこれからのプランを立てた。
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