ジョニー・エースの“A”のカード――フミ斎藤のプロレス読本#044【全日本ガイジン編エピソード13】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
カードはハート、ダイヤ、クラブ、スペードの4枚。もちろん、数字は“A(エース)”で、カードの裏側にはモノクロのポーズ写真がプリントされている。これがジョニー・エースのご自慢のオリジナル・グッズだ。
いまのところ非売品だから、なかなか手に入らないレアなアイテムということになっている。
エースは、この“A”のカードを毎晩、リングの上から観客席に投げ込んでいる。1日に20枚くらいバラまいたとして、1シリーズで約400枚、1年間で4、5000枚のカードが日本じゅうにまき散らされることになる。
この作業を2、3年つづければ、“A”のカードは全日本プロレスの隠れた名物になるかもしれない。カードの裏側には1枚ずつていねいに直筆のサインを入れてある。エースは用意周到にものごとを考えるタイプである。
オールジャパンについて語るときのエースは、好んで“We(わたしたち)”という表現を用いる。オールジャパンのリングは、日本人選手トップ5と外国人選手トップ5の時代に入った、とエースは力説する。
ジャパニーズの5人は三沢光晴、川田利明、田上明、小橋建太、そして秋山準。ガイジンの5人はスタン・ハンセン、スティーブ・ウィリアムス、ゲーリー・オブライト、ジョニー・エース、ザ・パトリオット。ボスのジャイアント馬場は、日本人サイドの“四天王”が“五強”へとシフトしつつあることをちゃんとわかっている。
メインイベンターがずらりと10人も揃っていると、よそ者はなかなか入ってこられない。よそ者どころか、ジャンボ鶴田もドリー・ファンクJrもアブドーラ・ザ・ブッチャーもすでにトップ10圏外のメンバーになってしまった。
オールジャパンのリングに上がっているレスラーは、オールジャパンのリングでどうしたらいいのかだけを考えなければならない。よけいなことに頭を使ってはいけない。だから、レギュラーのポジションを求めているアメリカ人レスラーたちにとってオールジャパンは敷居の高い団体ということになっている。
エースは、試合に使うコスチュームと身のまわりのものが入ったスーツケースのほかに、いつもブリーフケースを持ち歩いている。書類入れのなかにはアメリカじゅうから送られてきた何十人というレスラーたちの履歴書、ポーズ写真、ビデオのたぐいがつまっている。
アメリカはあれほど大きな国なのに、プロレスラーがフルタイムで仕事ができるカンパニーはWWEとWCWの2団体しかない。
そんなつもりはなかったのに、エースはいつのまにかオールジャパンのタレント・エージェントになっていた。シリーズとシリーズのあいだにフロリダに帰ると、いやでもオフィス・ワークが待っている。
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