Uを通過してメジャーリーグのベンチに座ったオブライト――フミ斎藤のプロレス読本#045【全日本ガイジン編エピソード14】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
アメリカ人レスラーの多くは、全日本プロレスをベースボール・チームのような感覚でとらえている。監督はもちろん、ジャイアント馬場である。
年間スケジュールがきっちりと決められている。ヤングボーイズがいて、ミッドカード・ガイズがいて、毎シーズン、打率3割を打つホームラン・バッターがたくさんいる。
ジャパニーズとガイジンに平等のチャンスが与えられる。そして、歴史と伝統がある。
ゲーリー・オブライトにとって、オールジャパンはいくら手を伸ばしてもとうてい届きそうにない、はるかかなたのそのまた向こうのリングだった。
スタン・ハンセンがいる。ドリー・ファンクJrがいる。アブドーラ・ザ・ブッチャーがいる。レジェンドたちはこのリングで花を咲かせ、このリングでトシをとった。
ビデオでしか観たことがないドリーやアビーは『刑事コロンボ』のようなものだ。ちょっとくらいおじさんになっても本物はホンモノである。
メジャーリーグにはメジャーリーグのタイムテーブルがある。『新春ジャイアント・シリーズ』が4週間。『エキサイト・シリーズ』が2週間。『チャンピオン・カーニバル』のリーグ戦が4週つづいたあとは『スーパーパワー・シリーズ』が2週間。
『サマーアクション・シリーズ』は“Ⅰ”と“Ⅱ”で合計7週間。秋になると4週間の『ジャイアント・シリーズ』があって、11月から12月第1週までの『世界最強タッグ』(3週間)で全日程が終了する。
1シーズンのツアーは、トータルで27週間。アメリカ人レスラーが全8シリーズにフル出場したとすると、1年間に16回も太平洋を横断することになる。ジョニー・エース、ダグ・ファーナス、ダニー・クロファットらは、もう何年も何年もこのサイクルで生活している。
UWFインターナショナルに在籍していたころのオブライトも、1年のうちに何度もアメリカと日本を往復した。出発地がネブラスカのオマハだった時期もあったし、南部のかなり深いところのペンサコーラだったこともある。
ペンサコーラは、フロリダ州の南西部の端っこにある人口6万人足らずのリゾート・タウン。メキシコ湾が目のまえに広がっていて、USエアフォースのベースがある町。
オブライトは、体の弱い母ジャネットさんとスープの冷めない距離にいられるように、北部ネブラスカから常夏のパンハンドル――フライパンの手の部分=フロリダ半島とペンサコーラの地理的関係――に引っ越した。ペンサコーラから成田までは約16時間の空の旅である。
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