スポーツ

「最強と信じて疑わなかったプロレス」20年を経て紐解かれる髙田延彦vsヒクソン戦

 総合格闘技ブームの火付け役となった「PRIDE」の始まりの物語を丹念な取材で紡いだ「プライド」(金子達仁著/幻冬舎)が出版された。主人公は、髙田延彦氏であり、第1回大会「PRIDE.1」の髙田氏の対戦相手ヒクソン・グレイシー氏であり、立ち上げに奔走したプロデューサーの榊原信行氏であり、それらを取り巻くすべての人たちだ。  第1回大会から20年が経った今、髙田氏はRIZINで統括本部長を務め、榊原氏は運営責任者としてイベントを支える。なぜ、この本を出版するに至ったのか、思うこととは? 髙田氏に話を聞いた。

「まだ言い忘れたこともあったかなと」

 これまでも公での発信を続けてきた髙田氏は続ける。「今のMMA(総合格闘技)を見てる世代のコたちは、この時代のことをほとんど知りませんから。温故知新じゃないけれど、これがあったから、あれがあるみたいな。そんな仰々しくは言いたくないんだけども、何となく繫がってきたストーリーみたいなものを、柔らかく、興味のある人にこの本を手に取ってもらって、その時代を読みながら、空想してイメージして。そうして今のRIZINがあることを知ってもらいたいなと」  PRIDEは、人気絶頂のプロレスラーだった髙田氏と「400戦無敗」のカリスマ柔術家ヒクソン・グレイシー氏との戦いを目玉のメインイベントに据え、「PRIDE.1」として開幕した。ところが、髙田氏は1ラウンド4分47秒、逃げ回った末に腕ひしぎ十字固めを極められ、あっけなく惨敗。大勢の日本のプロレスファンが夢を打ち砕かれ、髙田氏に罵声を浴びせた。これ以上ない、最悪の幕開けだった。  なぜ、こんな負け方をしたのか、そもそもどんな経緯で同大会は行われたのか、当事者はじめ周りの人々はどんな思いだったのかが、同書で描かれている。なかでも髙田氏は、良いことも悪いことも、逞しさも脆さも、生々しいほど詳しく明かしている。

「自分が見ている側だったら声が枯れるほどヤジを飛ばしていた」

 髙田氏は述懐する。「あの一戦だけでなく、そこに至るプロセス、終わってからの自分自身の気持ちの変化もそうだし、周りに携わった人たち、お金を払って観に来てくれた人の思いの変化も、当然、簡単に言葉で言い尽くせないものが、濃密なものがね、この1戦にはかなり絡んでるんです」と思いを明かす。 「ふと思うんですよ、自分が見てる側だったら、みんなと一緒になって、声枯れるほどヤジを飛ばしてただろうなと」。 「ハッピースタート」どころか、ここで「ジ・エンド」となってもおかしくなかった。だが、髙田は再びヒクソンに挑む。それは1年後の「PRIDE.4」で実現した。結果は、善戦むなしく1ラウンド9分30秒で、前回同様、腕ひしぎ十字固めでの敗戦。ヒクソンは、髙田がわずか1年で見違える成長を遂げたことを感じ取ったが、同時に自らの生い立ちや経歴で勝ち取った自身の強さについても言及している。 「本書を読んでいただいたらわかるように、あのヒクソン・グレイシーの生い立ちは凄まじい。こちらはスポーツ、あちらは殺し合いの中で培ってきたのだから、私が5年10年と修業を積んでも、互角に戦えたかどうか。だけど、その人と2試合できたってことは、本当このチャンスをくれた神様にもヒクソンにも、そして主催者の皆さんにも、そしてあんな負け方をしたのに、2回目もわざわざお金を出してチケット買ってきてくれたお客様にもね、感謝の気持ちで今だにいっぱいなんです」と髙田氏は言うのだ。
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「柔術のほうが強いね……」
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●「プライド」(金子達仁著・幻冬舎刊・1500円+税)
特設サイトで試し読みを実施 http://www.gentosha.jp/articles/-/8844

●髙田延彦instagram
https://www.instagram.com/takada_nobuhiko/

プライド

伝説の試合、髙田延彦×ヒクソン・グレイシー。20年の時を経てすべての関係者が重い口を開いた。髙田延彦の悔恨、ヒクソン・グレイシーの恐怖、榊原信行の苦悩―。三者の数奇なる運命の物語。延べ50時間以上にわたる当事者、関係者への徹底取材が紡ぎだす、衝撃のノンフィクション!

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