更新日:2022年11月29日 11:46
スポーツ

「最強と信じて疑わなかったプロレス」20年を経て紐解かれる髙田延彦vsヒクソン戦

「柔術のほうが強いね……」

 当時は「プロレスが最強」と声高に言っていた髙田氏に、今は柔術とどちらが“最強”と思うか尋ねた。 「柔術でしょうね。プロレスと柔術なら、明らかに柔術が強いですよ。20年前から止まったままです」と即答。髙田氏いわく、当時は「プロレス最強」というのを信じて、それを気持ちの柱として、毎日の鍛錬に勤しんできたと語る。 「だから、チャンスがあれば“最強”というのを証明してやろうと思っていました」。その結果、現実にヒクソン戦に挑んだのだ。  髙田氏は続ける。「でも盲目だったかもしれません。当時は柔術という武道の存在すら知らない人がたくさんいましたから。’93年に『UFC.1』が開催され、ホイス・グレイシーが優勝したときも、『何、柔術って?』って、そんな認識でしたから」。  それから徐々に情報が入ってきた。ヒクソンはホイスいわく「10倍強い」という。凄さ、ヤバさを感じながらも、「飯の食い扶持を奪われるぞ」と真っ正面に受け取ったという。

ライオンのマークが示すこと

 髙田氏は、アントニオ猪木に憧れて、プロレスラーになった。デビューは、新日本プロレスだ。同団体のエンブレムは、“百獣の王”ライオンがモチーフのキャラクターが中心に据えられ、“KING OF SPORTS(スポーツの王)”と刻まれている。紋章への思いは同書でも明らかにされているが、今も変わらないのだろう。髙田氏は言う。 「今、あの紋章が飾りになっちゃってる。我々みたいに真っ正面に捉えず、自分たちと関係ないこととセパレートしてる。でももし本当にライオンのマークを背負って、百獣の王であるならば、スポーツのキングであるならば、やっぱりどんどんこういうところに出てきて、証明する。そうでなければいけないものを背負ってるんです。無茶やれとは言いませんよ。でも、グレイシーでもUFCでも殴り込みに行く気負いで、強い人たちを倒して、さらにライオンの中に強い魂を吹き込んで、ライオンがもっともっと光り輝くように磨きあげるのが、われわれが抱いていたロゴマークなんじゃないかなと」  さらに、「昔のアントニオ猪木だったら、全員を引き連れて『行くぞ、この野郎』『俺たちが本物だ』って、やってなくても、言ってるよね。そこが“ライオン”を背負う生命線なんですよ。いい悪いじゃなくて、そこまで牙を抜かれたというか、ツメを抜かれたというか、そういう状態でいるんじゃないかなと」 「そこそこやれてるから、外の世界なんか視野に入ってないんだろうけれども。やれなくなったら、こっち来るかもしれないよね。根性あるやつは、来るんじゃないの?」と古巣と日本格闘技を担う若者へ喝を入れる。  最後に、強さとは何かと尋ねた。しばらく考えた後、「いろんな解釈があると思うけど、弱さを知ってるから強さを知る。怖さを知るから勇気を知ることはあります」と髙田氏。歴代の猛者たちの激戦や戦績を熱を帯びて語りながら、誰もがそうしてさらに強くなると続けた。「自分が辛い思いをしたりとか、負けたりとか、弱いポイントを自分が痛感したとき、身に染みて分かったとき、それが要するに強さへの一つ大きな栄養源というかね、材料になっていくのかなと」。ヒクソン戦のすべてを、ここまで赤裸々に本書で明かしているのは、そうして髙田氏が得てきた“強さ”があるからなのかもしれない。 <取材・文/松山ようこ 撮影/渡辺秀之>
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●「プライド」(金子達仁著・幻冬舎刊・1500円+税)
特設サイトで試し読みを実施 http://www.gentosha.jp/articles/-/8844

●髙田延彦instagram
https://www.instagram.com/takada_nobuhiko/

プライド

伝説の試合、髙田延彦×ヒクソン・グレイシー。20年の時を経てすべての関係者が重い口を開いた。髙田延彦の悔恨、ヒクソン・グレイシーの恐怖、榊原信行の苦悩―。三者の数奇なる運命の物語。延べ50時間以上にわたる当事者、関係者への徹底取材が紡ぎだす、衝撃のノンフィクション!

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