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安彦考真が40歳でJリーガーを目指す理由「サッカー選手は個人競技のアスリートの姿勢を見習うべき」

「ファンサービスという言葉が大嫌い。なぜ上目線なのか。ファンがいなければスポーツ選手は成り立たないんです。ビジネスにもならない。自分たちがいただいているお金はどこから? 見下ろしてのサービスだから、根本を見誤るのでは? もっと選手に仕組みを教えないといけませんよ。ファンと選手が一緒に歩み、お互いのマックスをぶつけ合って、強いチームにしよう! が理想でしょう」  では、具体的にはどうすればいいのか。選手がファンを増やすのは難しくないと考える。 「サインするだけではなく、『今日どこからきたのですか?』、『寒かったですね、長く待ってないですか?』とか、その人を知ろうとするだけでとても喜んでもらえる。書いて終わりの選手が多すぎます。ちょっとした会話、気遣いで全然違うのに」

安彦が考える“プロ選手”の姿とは

 ところで、彼はなぜ水戸ホーリーホックを選んだのだろうか。 「水戸ホーリーホックは、地元やファンを楽しませるため、どうしたら良いのか、めちゃくちゃ考えているチームだと感じています。またクラブとしてアジア戦略や、廃校利用、アニメとのコラボなど、多くのチャレンジを積極的にしている。そこで、純粋に力になりたいと思えた。ただ、選手というスタンスで入って、僕のファンも一緒に連れて来たいんです。当然、僕に技術がなければいけない。100人ファンを連れてくるんで選手にしてください! ってわけではないのです。もちろん、自分自身に向けられる批判は重々承知している。Jリーグを舐めるな、馬鹿にするなという意見が多いですが、一切そのつもりはありません。なぜならJリーガーがいかに上手くて、どれだけ日々苦しんでいるのかを、目の前で見てきていますから」 安彦考真 Jリーガー=サッカーが上手い選手、であることに間違いないのだろうが、“プロ”とは一体なんなのであろうか。わかりやすいのは、試合に出て活躍すること。彼らは毎日がオーディションで、日々11個の椅子を争っている。仲間として一体感を求められるが、ライバルでもある特殊な関係。とはいえ、仲間を怪我させるなんてできない。応援しなければいけないが、仲間が頑張ったら自分は出られない……大変なジレンマとストレスだ。 「だから、選手の手助けをピッチ外も含めてしたい。僕は試合に出るだけがプロ選手の仕事だと思っていないので」  安彦氏は、プロの定義は自分で決めるべきであり、サッカー選手はかくあるべきという思い込みも捨てるべきだという。 「幸せってなに? と問われて、車があって家があって家族がいて、日曜日はピクニックみたいな。これは何かの宣伝でしょう。洗脳じゃないですか。幸せの定義なんて夜の一杯でも良いんです。誰も否定しないでしょう。なのに、こうあるべきってプロパガンダを真に受けちゃって。サッカー選手もこうでなきゃいけない、が強すぎます。プレー以外のことやっちゃダメで、CMに出たらパフォーマンス下がるとかね」  試合に出ずともチームに貢献できることはたくさんあり、良い影響をもたらせる。 「僕のプロフェッショナルの定義は年俸やお金ではなく、影響力などの数字で表しづらいもの。例えば、『試合に出してもらえない安彦があれだけトレーニングしているのに、俺たちが練習サボるわけにいかないな』と若手が思えば、チームにとって僕の存在がプラスなのは間違いありません。腐ってここにいるわけじゃない、好き好んでオールドルーキーなんだと、ひたむきに取り組んでいれば多くの共感が得られるはずです」 安彦考真

サッカー界の未来と失敗を笑わない社会のために…

 クラウドファンディングをはじめ、ときには物議を醸しつつ前に向かって進む。果たして、最終的に安彦氏が目指すものとは? 「子供たちにとってプラスの存在であるサッカー界を心から望みます。体罰上等のコーチング、横暴な指導者、好きなものを嫌いになるような教育法など、大人のエゴで子供の好きを潰して欲しくない。そして、失敗を否定せず、チャレンジを応援する社会になってほしい。応援って何もデメリットないし、もしかしたらリターンが望めるくらいなのに、なぜかチャレンジを否定したがる人が多い。わけわからないですよ。失敗は無視すればいい、責めて煽るからミスるんです」  40歳という年齢でJリーガーを目指す本意は、こういった声を届かせるため。かつては彼にとって目的であったサッカー選手が、声を大きくするための手段になりつつあるわけだ。 「目指した変化が現れるのは、僕が死んでからでも構いません。名を残したいわけでもないので、メッセンジャーは僕じゃなくたって良い。ただ、自分のアクションで何らかの波が起きることを願っています」  現在は、練習生という難しい立場にある安彦氏だが、チームに影響は与えているのだろうか。水戸ホーリーホックの広報担当者がこう言う。 「安彦さんは積極的に選手の間に入っていきます。それが選手間の円滑なコミュニケーションにつながる良い影響を与えていると思います。遅くまで残って練習していて、若手選手への良い刺激になっています。また、通訳の経験を生かしてブラジル人選手の支えになり、チームの潤滑油としても機能。オフザピッチの在り方も重視している西村強化部長からの期待も大きいです。ただ、正式加入についてはシビアに見ると強化部長から安彦さんには伝えているようです」<取材・文/金井幸男、撮影/藤井敦年>
―[安彦考真]―
編集プロダクション勤務を経て、2002年にフリーランスとして独立。GETON!(学習研究社)、ストリートJACK(KK ベストセラーズ)、スマート(宝島社)、411、GOOUT、THE DAY(すべて三栄書房)など、ファッション誌を中心に活動する。また、紙媒体だけでなくOCEANSウェブやDiyer(s)をはじめとするWEBマガジンも担当。その他、ペットや美容、グルメ、スポーツ、カルチャーといった多ジャンルに携わり、メディア問わず寄稿している。
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