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放送作家が語る「ビートたけしとたけし軍団の“絆”」

 放送作家としてテレビ業界の末席に身を置くボクも、たけしさんに憧れてこの世界に入ったのだが、恥ずかしながら一度、たけしさんに接触を試みたことがある。  1985年盛夏、関東のある田舎町で暮らす15歳のボクは、早朝電車に乗って、初めてひとりで上京。僅かな情報を頼りに5時間以上も右も左も分からぬ新宿区四谷内を駈けずり回り、当時たけしさんが借りていたマンションを突き止めた。駐車場にはファンならばお馴染みの赤いポルシェが停まっていた。赤いポルシェにたけしさんを投影し、人影のない駐車場で胸をドキドキさせながら、ずっとたけしさんを待ち続けた。弟子入りなどの野望を抱いていたのではなく、夏休み最大の思い出に憧れのたけしさんに一目会って、握手とサインがほしかったのだ。手にはプレゼントとして地元名物のお煎餅を持っていた。結局たけしさんは現れず、最終電車で帰ったが、たけしさんの分身ともいえる赤いポルシェの前にひとりで5時間近くいられたことが、たまらなく嬉しかった。読書家といわれるたけしさんらしく、赤いポルシェの座席に、この年の芥川賞を受賞した米谷ふみ子さんの小説『過越しの祭』(岩波現代文庫刊)が無造作に置かれていたのが、今でも強烈に印象に残っている。  たけしさんの独立騒動が大きくなったのは、4月1日。枝豆さん、ダンカンさん、義太夫さん、水道橋博士さんがそれぞれ自身のブログで「声明文」を発表し、たけしさんが経営や財務を全面的に信頼して任せていたオフィス北野の森社長に「完全な裏切り行為」があったことを告発したことで一気に加速した。  では、今回の独立騒動とは別にして、たけしさんは人間の愛憎や欲望が渦巻く「裏切り」に対し、どんな認識を持っているのか? 気になって、たけしさんの数ある著書を読み返していたら『日本人改造論』(角川書店刊)のなかに興味深い一文を発見した。 「『裏切り』って結局被害者の問題だからね。裏切られたって人がね、“自分が裏切られたことによって相手がまたひとつ生き延びた”っていうふうに考えればいいんでね。その苦しさ自分で引き受けちゃってさ。二人一緒にダメになるより、自分がダメになった代わりにそいつが上がっていって、一人助かったんだって、考えたほうが楽だよね。そのほうが自分で納得がいく。あいつ、裏切った、裏切ったって心の中に毒持って生きてくより、相手にいいことしてやったっていう感覚でいるほうがいいんだ」(『日本人改造論』)  現在、別々の事務所に所属するたけしさんとたけし軍団。たけしさんは騒動のさなか、MCを務めるTBS系『新・情報7daysニュースキャスター』で、今後、軍団と「合流」する可能性について「それは約束してる」と明言。「今度は、マージン70%は取ろうと思ってる。吉本を抜いてやろうと思ってる」と笑ったが、今回の騒動を機に師弟の「絆」はさらに深まったに違いない。 文/テレビ裏から愛を込めて(構成作家)
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