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世界でいちばん、「佐藤さん」が密集する場所――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第15話>

アレクサンダーの由来がどうしても気になった

 考えることがアレクサンダーのことばかりになった。最初はあの狂気としか思えない量の定食や、脂がすごすぎてタールとかで揚げてるんじゃないかと思うほどの唐揚げに魅せられていたが、いつの間にかアレクサンダーと名乗る店主に魅せられている自分がいた。  本来、僕はあまりこういった店の常連にはならない。常連として認識されると途端に恥ずかしくなり、もう行かないようにしようと心がける人間だ。毎回、塩ラーメンとチャーハンを頼んでいて、注文した後に「はい、いつもの塩ラーメンとチャーハンね」と言われただけでもう行かない。会計の時に「いつもありがとうございます」と言われただけでもう行かない。そんな人間だ。なるべく認識されたくないのだ。  ただ、この店は違っていた。店の方から常連めいた扱いをしてくることはなかったし、常連と認識されてもいいという安心感みたいなものがあった。デブが集まっていて、親近感とか帰属意識みたいなものがあったのかもしれない。  そんな居心地のいい店だから、自分の中での例外となり常連になりつつあったが、僕は一つの決意を秘めていた。 「なぜアレクサンダーなのか教えてもらえなかったら、もう店に行くのをやめる」  もう行かないと心に決めたのだ。他の連中は知っているのに自分だけは知らない、そんな状況はなんとも気味が悪いものだ。そんな状況では帰属意識もクソもないと思ったからだ。仲間に入れてくれないなら常連である理由はない、そんな感情だったのかもしれない。 「今日が最後だ」  今日教えてもらえなかったら店に行くのをやめる。そんな決意を持って入店した。  まだ夕飯時には少し早かったのか、客は誰もいなかった。店主が、いやアレクサンダーが忙しそうにして厨房で汗をかいているだけだった。料理の仕込みでもしているんだろう。 「あれ、バイトの子は?」  いつもいるバイトの若い子がいない。別にどうでもいいが、会話の掴みにとカウンター越しに質問してみる。 「あいつはいつも遅刻だよ。若いヤツは時間にルーズだからダメだ」  アレクサンダーは少し愚痴っぽく言った。 「遅れてきて申し訳なさそうに謝るならまだわかるんだが、気づいたらしれっといやがる。まるで遅れてなんかいないって顔してやがる。だから腹が立つんだ」  なかなかストレスが溜まっているのか、アレクサンダーの愚痴は留まることを知らない。これはチャンスだな、そう思った。  今のアレクサンダーは饒舌だ。それに、いつもなら常連たちが醸し出す揶揄するような空気によって話をはぐらかされているような感じだった。その常連たちも今はいない。チャンスだと思った。 「なんでアレクサンダーって呼ばれてるんですか?」  アレクサンダーの愚痴を遮って質問した。そこには覚悟があった。もし答えてもらえないなら、もうこの店には来ない。そう決意して質問した。
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アレクサンダーはこうして生まれたのだった
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