更新日:2018年10月30日 16:52
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世界でいちばん、「佐藤さん」が密集する場所――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第15話>

アレクサンダー義男の悲劇はまだ終わらなかった

 しかしながら、アレクサンダー義男さんの悲劇はそれだけでは終わらなかった。  義男さんが予約していた店はOL系の店だった。OL風の制服に身を包んだ女の子がやってきてセクハラ的に悪戯ができる売りがあった。女の子も意識が高い子が多く、よくありがちな単にOL風の制服を着ているだけ、ということではなくオフィス感を醸し出してくれるのだ。 「田中課長、やめてください」  とかオフィス感を出してくれるのだ。もちろん、その時は予約に使った名前を呼んでくれる。これは臨場感があり、興奮度が高まる、だからこの店を選んだのだ、彼はそう力説していた。しかし、今はとんでもない名前を名乗っている。 「やめてください、アレクサンダー課長、ああっ」  どんな課長だ。  意識が高い女の子だったようで、ずっとアレクサンダー課長と呼んでくれたそうだ。アレクサンダーさんもだんだん自分がアレクサンダーじゃないかと思い始めたっという。 「まあ、それでよ、それを面白おかしく常連に話したらアレクサンダーって呼ばれるようになったわけよ」  アレクサンダーさんは爽やかな笑顔を見せた。 「そんなことが……」  それは悲しい物語なのか、面白い物語なのか定かではない。けれども、エロが仕事の原動力と言い切るアレクサンダーさんはかっこよく見えた。  気が付くと、アルバイトの若い子が本当にいつの間にか入口近くの床を掃除していた。本当に遅刻なんかしていなくて、最初からそこにいたかのような当たり前さでそこにいた。アレクサンダー課長はその姿を見つけて激怒した。 「テメー、エロい動画サイトで再生ボタンを押そうとしたらスーッと出てくる広告か!」  その怒り方に、さすがエロが原動力な人は違うなあと思った。それと同時に、なんだかこの店の居心地が良くて、常連となる気持ちが分かったような気がした。  風俗店には世界で一番、佐藤が集まっている。そしてこの店はもしかしたら世界で一番、デブが集まっているのかもしれない。その偏りが、不思議な居心地の良さを醸し出しているのかもしれない。  今日もアレクサンダー課長は、仕事終わりにデリヘルに行くことを原動力に、タールで唐揚げを揚げているのである。もちろん、予約名はアレクサンダー義男だ。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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