更新日:2018年11月07日 12:48
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西島秀俊のセクハラはOKでも、普通のおっさんは存在自体がセクハラである真理――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第16話>

ワキ毛好きにも、ワキ毛を選ぶ権利がある

 完全に見落としていた。  思い返してみても、100個ケツがあっても許容できるケツはどう多く見積もっても16個だ。やはりかわいい子のケツじゃないとダメだ。なんて会話をしてるんだ、僕たち。 「人は本質的に受け入れる人と受け入れない人を区別しているんです。ワキゲが好きだからこの世のワキゲをすべて好きになるべきなんて暴力ですよ、それは」  だから、人によってこれは不快だと断じ態度を変えることは悪でも何でもない。そして我々おっさんは特に若い子には受け入れられるわけではないのですから、存在自体がおっさんと認識し、注意深い行動が求められる、そういう主張だった。 「なるほど、ワキゲだったらなんでもいいわけではないんですね」 「そうですよ。あいつら何でもいいと思ってよく分からない正体不明の縮れ毛だけを持ってきやがって! あんなものには何の価値もない!」  運転手さん、ワキゲでどんな目に遭ったんだろう。そればかり気になってしまう。この怒りの深さは相当なもんだぞ。 「これはセクハラじゃないんだから受け入れるべき、なんておこがましいと思いませんか? だって自分が許容されるの前提の話ですよ、それ。我々だって相手を見てワキゲを選んでいるのに」  いや、僕はワキゲは選んでないけど。  とにかく、なるほどなあ、と理解した。そう、僕らおっさんが受け入れられることなんてほとんどないのだ。これには完全に目から鱗だった。  いよいよタクシーが目的地周辺に到着する。いつの間にか雨は上がっていた。 「あのー、相談なんですけど」  料金を払いながら、最後に運転手さんに相談をもちかける。 「今度、仕事で沖縄に行くんですけど、お土産にちんすこうはやめておいたほうがいいですかね?」 その質問に運転手さんは笑顔を見せた。 「やめておいた方がいいですね。ちんすこうは好きですし何も悪くないけど、我々は許容されないおっさんですから」 「自らのちんこを吸う姿をカラーコピーして頒布し始めたとか言われたらいやですもんね」 「そうですよ。なにせわたしたちおっさんですから」 「おっさんですから」  その言葉とテールランプの赤い光を残してタクシーは去っていった。  何をされるかではなく、誰にされるか、それはセクハラに限った話ではない。おっさんだって誰だって、その行動原理に基づいて生きている。だから、自分が受けいれられるはず、と思わず、常に注意して生きていかねばならないのである。セクハラ騒動の影には、自分が受け入れられるはず、という驕りが確かにあるはずだ。  脇を上げ、自分のワキゲを見てみた。 「確かに暴力的だな、ワキゲは」  そう呟いた言葉は物憂げな八王子の空へと吸い込まれていった。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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