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正月に集まると必ず一人はいる、インチキおじさんの思い出――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第24話>

インチキおじさんは起死回生をはかろうと、とんでもない策に出た

 何年か経過し、もうインチキおじさんに騙される幼子もいなくなったある年の正月。その状況をなんとか打破しようと思ったのか、インチキおじさんは暴挙に出た。  完全にインチキおじさんだと見抜かれたおじさんは、キッズからの人気が目に見えて落ちていることに焦ったのだと思う。言葉は悪いが、キッズからの人気だけが親戚内でのおじさんの立場を確立させていた。それがなければただのダメな大人、となる。そんな気持ちがあったのだろう。  なんとかしなくてはならない。注目を集めなくてはならない。  インチキおじさんはとんでもないこと言い始めた。  「おじさんな、チンコ取ったんだわ」  あまりに意外なカミングアウトにキッズたちに衝撃が走った。  チンコを、取る?  「うそ!」  あらゆる親戚キッズが集まり、わーっとおじさんの周りに人垣を作った。話を聞きたいのだ。チンコを取った話を聞きたいのだ。おじさん人気、再燃である。  やはり少し成長したといっても子供は子供、特に男の子はチンコの話が好きだ。さらには性転換だとかそういった知識がない年頃だ、チンコを取るという新概念の登場に驚きを隠せない。  「どこで取ったの?」  イトコのあっちゃんが目を輝かせてそうたずねた。  「山本医院さ」  おじさんは適当に答えていた。近所では有名な不気味な病院だ。ツタで覆われた洋風の建物で、幽霊が出ると噂の場所だ。あそこならチンコを取る手術をしているかもしれない、そんなオーラがある場所だった。  もちろん、おじさんは性転換手術なんて受けていないし、チンコも取っていない。ただ子供の気を引こうとして嘘をついた形で、いつものインチキおじさんだった。  「見せてよ」  懐疑的な子供もいる。イトコのサトシちゃんだ。これまでさんざんインチキおじさんに煮え湯を飲まされてきたので、まだ半信半疑といったところだ。だから見せてみろという要求だ。  「ダメダメ、こんな場所でチンコ出したらおばさんに怒られちゃうよ、見せられないね」  インチキおじさんはそう言って首と左手を大きく横に振った。  (もう取ってしまったのならそこには何もなく、見せてもチンコを出したことにならないのでは?)  僕はそう思ったが言わなかった。随分と理論的な子供だったように思う。  「血とかいっぱい出た?」  「めっちゃ出た、なんかおしっこもめっちゃ出た」  適当すぎるだろ。  「とったチンコはどこにあるの?」  「家の仏壇に入れてある」  今考えると、インチキおじさん、めちゃくちゃ適当に答えていた。目を覆いたくなるほどに適当に答えていた。
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チンコを取ってスターに返り咲いたおじさん
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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