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正月に集まると必ず一人はいる、インチキおじさんの思い出――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第24話>

 「大丈夫だよね、おじさん、チンコ取ったし」

 見ると、おじさんがうずくまっている。どうやらサトシちゃんの打球は豪快なピッチャー返しとなり、おじさんの股間に直撃したようだった。完全に激痛で悶えてしまうやつだ。  「やばいやばい」  キッズたちは慌てておじさんに駆け寄るが、はたと気が付く。そういえばおじさん、チンコ取ったじゃん。痛くないんじゃないの、と。  「大丈夫だよね、おじさん、チンコ取ったし」  サトシちゃんのその言葉に安堵の空気が流れた。そうだおじさんはチンコがないのだ。 その事実をおじさんも思い出したらしく、ヘロヘロになりながらも立ち上がった。    「大丈夫、大丈夫」  おじさん、めちゃくちゃ汗かいてた。冬なのに、滝のように汗をかいていた。  「さあ、続きだ。守備位置に戻れ」  おじさんはそう言って、またさらに大量の汗を噴出させた。僕はこの時完全に確信した。こいつチンコついてるだろ。めちゃくちゃ痛いんだろ。  「いくぞ、サトシ!」  ピッチャーマウンドから声をかけるが、完全に目が虚ろだ。そもそも、サトシちゃんは先ほどピッチャー返しを打ったのでアウトなりヒットなりのはずで、別の打者に変わらなければならない。それすら分からないほどにおじさんは朦朧としていた。  おじさんが振りかぶる。  先ほどの剛速球が幻だったようなヘロヘロの球がきた。ヘロヘロと言っても素手で捕ったら痛い。頼むぜ、サトシちゃん、打ってくれよ。  カキン  冷たい空気を切り裂くような快音が公園に響き渡った。  ボゴン  それから少し間をおいて、聞いたことある鈍い音が公園に響き渡った。  これやばいやつでしょ。
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おじさんは子供達の夢を壊さないため、懸命に立ち上がった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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