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正月に集まると必ず一人はいる、インチキおじさんの思い出――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第24話>

おじさんは子供達の夢を壊さないため、懸命に立ち上がった

 おじさんは悶絶していた。今度はキッズたちも駆け寄らない。どうせ大丈夫なんだろうという雰囲気だ。なにせチンコがないのだ。  「だいじょ……だいじょ……」  おじさんはフラフラしながら起き上がった。男性なら分かってもらえると思う。この状態で立てるのはハッキリ言って異常だ。全ては子供たちの夢を壊さないため。おじさんはチンコを取ったスーパーマンだという夢を壊さないため。  インチキおじさんなもんか。しょぼいもんか。すげえおじさんじゃないか。僕は本当にチンコを取ったと信じ切っていたとき以上に彼のことを尊敬した。  「ちょっとボールが悪いな、新しいボール探してくるわ」  おじさんは虚ろな目をして立ち上がると、プレハブの中へと消えた。きっと中で身悶え、痛みとか熱とかを効率よく逃がす姿勢を取っているに違いない。  「あれー、ないなー」  「ちょっとまてよー」 「ネズミがいる、入ってきちゃいかん」  おじさんはそう牽制して時間を稼いだ。そして、不自然なほど長い時間を置いた後、ボワッとプレハブの中から飛び出してきた。インチキおじさん登場である。そう、いつものあのインチキな顔に戻っていた。そう、チンコのないスーパースターの顔だ。  僕はこの日のインチキおじさんの顔を忘れない。そう思った。  インチキおじさんは、それから14年後くらいに、お酒の飲みすぎからきた病気で亡くなった。葬儀の時に久しぶりにイトコが集まったのだけど、あの日、センターを守ってたユカリちゃんは、その日まで本当におじさんがチンコを取ったと信じて疑っていないかった。それだけおじさんがあの日、守ろうとした嘘は迫真のものだったのだ。  粛々と進む葬儀の最中に、ずっと棺桶からボワッと飛び出してこないかなって考えていた。インチキおじさんにはそれくらいの不条理さがあっていい。そうあるべきだ。もう一度、あのインチキ臭い顔を見せてよ。そう考えていたら涙が止まらなくなった。  不条理さは時に悲しい。  あの、さくらもももこさんが作詞した歌を聴くたび、いつもおじさんのことを思い出す。きっと今でも地獄とかで鬼相手にインチキしてるんだろうな、そう考えている。それでこそ僕のインチキおじさんなのだ。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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