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ヨコ文字を連発する、意識高い系おっさんに訪れた結末――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第29話>

それは意識が高いのではなくただのルー大柴だった

 確かにテレビ番組を知らされる悪魔のシステムからは解放された。おっさんも反省したらしく、安易にテレビのネタをぶっこんでくることをやめた。  けれども、今度はもうちょっと知的なものを取り入れようとでも考えたのか、おっさんはビジネス書などを読み漁るようになったようなのだ。それ自体はとてもいいことなのだけど、何がどうなったらそうなるのかわからないが、感化されてめちゃくちゃ意識高い系な感じになってしまったのだ。  最初はちょっとした違和感だった。そのおっさんと仕事の話をしていた時に、ポロリとある言葉が出てきた。 「じゃあよろしく! ASAP(※1)で」  (※1 ASAP:As Soon As Possibleの頭文字。なるべく早くでという意味)  最初に聞いたときはよく意味がわからなくてウィスキーかな? と思ったほどだ。あとで検索して分かったくらいだ。どうやら意識が高い人たちに好んで使われる言葉らしい。  変わった用語を使うなあと思っていたのだけど、どうやら本格的に意識高い系に感化されてしまったらしく、その後も爆発的にこれらの意識高いワードは増えていった。 「タスク(※2)のスケジュールをフィックス(※3)しよう! ダメならリスケ(※4)で!」 (※2 タスク:課された仕事、課題) (※3 フィックス:ビジネスシーンでは確定させるという意味で使われる) (※4 リスケ:リスケジュールの意味。スケジュールを組みなおす) 普通に日本語で言った方が文字数が少なく速い可能性すらある。これには周りも困惑するばかりだ。しかしながら当の本人はずいぶんと気に入ってしまったらしく事態はどんどんと悪化していった。 「コミット(※5)エビデンス(※6)コンセンサス(※7)としてアサイン(※8)してフィードバック(※9)でしょ」 (※5 コミット:コミットメントの略、責任をもって引き受けるという意味 ) (※6 エビデンス:証拠、根拠、信ぴょう性を担保する書類など) (※7 コンセンサス:複数人の合意、意見の一致) (※8 アサイン:あてがう、割り当てる、任命するなど) (※9 フィードバック:評価した結果を伝え返すこと)  もはや翻訳してみてもちょっと何がいいたいのか分からない。  まあそれでも、特にたいしたことは言ってないとわかるので大勢に影響はなかったのだけど、あまりにもこういった用語を使いすぎたのか、ネタが切れた。おまけに何が意識高い用語で何が普通の用語だか分からなくなってしまったらしく、横文字さえ使っていればいい、と考えたのかわけのわからない状態になっていた。 「今日はすごくハッピー(※10)モーニング(※11)だったけど、ハードワーク(※12)タイアード(※13)だったよ」 (※10 ハッピー:幸せ) (※11 モーニング:朝) (※12 ハードワーク:激務) (※13 タイアード:疲れた) もはや意識高い系ではなくルー大柴だ。しかもまったく意味ないことを言っている。
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ついに意識高いおっさん同士のヨコ文字対決が始まった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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