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ヨコ文字を連発する、意識高い系おっさんに訪れた結末――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第29話>

ついに意識高いおっさん同士のヨコ文字対決が始まった

 と、ここまでは単におっさんが感化されやすく、意識高い系になってしまっただけの話だ。最終的にはルー大柴になってしまったが、まあたいした話じゃない。よくある光景だ。  けれども事態が急変する事件が起こった。  ガチでバリバリに仕事ができてスマートな本物の意識高い系の人が職場に配属されてきたのだ。 「PDCAサイクル(※14)まわしてる?」 (※14 PDCAサイクル:継続的改善手法Plan→Do→Check→Actionの4段階を繰り返すこと)  みたいなことをサラっと言ってのける本物の意識高い系で、おまけに海外の大学を出ているらしくやたらと英語の発音がいい。 「エビデンス」  一つとってみても本物の意識高い系は滑らかだが、感化されたおっさんはエビフライをみて「エビでやんす」って言っているような発音だ。  職場に二人も意識高いワード使いがいるのもストレスだが、おっさんのほうも本物の意識高い系の人を快く思っていなかったらしく、妙な対抗心を燃やしはじめた。もうガンガンに使ってくるのだ。  そして、そんな二人がついに会議でやりあうことになってしまった。ある議論から火が付き、本物の意識高い系と、感化された意識高い系がやりあう事態になってしまった。 「リソース(※15)プライオリティ(※16)イシュー(※17)としてサスティナビリティ(※18)を……」 (※15 リソース:資源。従業員、資金、設備など) (※16 プライオリティ:優先順位) (※17 イシュー:問題、課題、論点など) (※18 サスティナビリティ:持続可能な) 「もっとドラスティック(※19)フィジビリティ(※20)シナジー(※21)としてリバイズ(※22)……」 (※19 ドラスティック:劇的な、思い切った) (※20 フィジビリティ:実現可能性) (※21 シナジー:相乗効果) (※22 リバイズ:修正する)  お互いに引くに引けなくなってエスカレート(※23)していく様は、さながら2頭の龍。争いながら天へと昇っていく2頭の龍のようだった。 (※23 エスカレート:拡大、激化していくさま。escalate) 全く回りが付いていけない丁々発止の意識高い議論が続いたのだけど、やはり本物の意識高い系は地力が高い。感化されただけのおっさんは地力で負けるので次第にルー大柴が現れ始めた。 「それはミー(※24)も大変遺憾に思っています」 (※24 ミー:me、私、自分)
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おっさんは感化されることで多様性を失いがちなのである
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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