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ヨコ文字を連発する、意識高い系おっさんに訪れた結末――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第29話>

おっさんは感化されることで多様性を失いがちなのである

 結局、限界を迎えたおっさんが先に意識高いワードが出てこなくなってしまったらしく、最終的に 「横文字ばかりで意味が分からないので日本語で」  と誰もが、それをお前が言うかーと思うしかない敗北宣言をしたことで不毛な争いは終わった。  次の日、おっさんは出勤してこなかった。  もしかして、昨日の意識高い戦争に敗れたことを気に病んでしまっているのだろうか、僕の胸にそんな心配がよぎった。同時に、あそこまでやられたらもう意識高いワードは使ってくれないかもしれない。それはそれでホッとするような少し寂しいような、そんな気持ちを抱いていた。  ただ、このおっさんは別に気に病んで休んだというわけではなく、単純にインフルエンザに罹患しただけだったらしい。その休むというおっさんからの電話を僕が受けたのだけど、 「インフルエンザ(※25)コミット(※26)したので休む」 (※25 インフルエンザ:インフルエンザウィルスを病原体とする急性の呼吸器感染症) (※26 コミット:責任をもって引き受けるという意味) と訳の分からないことを言っていたので、まだまだ意識高い系を続けるつもりだとわかって少し安心した。 おっさんは感化されやすい。それは多様な生き方を選択できるということだろうか。いや、おっさんは逆に感化されることによってダイバーシティ(※27)を失っているようにすら思える。 (※27 ダイバーシティ:多様性)  インフルエンザ回復後のおっさんは相変わらず意識高いワードが多かったけど、やはりルー大柴も出ていて、特に「What?」がお気に入りらしく、多用するようになっていた。インフルエンザ中に練習していたのかやや発音がややそれっぽくなっていて、 「ホワッ」  って言うので、そのたびに「あ、ブルースリーだ」と父親を思い出して懐かしい気持ちになっている。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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