猫組長が語る“日本で復活しつつある覚せい剤ブーム”とは?/『ネコノミクス宣言 完全版』発売記念
元経済ヤクザ・猫組長氏による国際金融、マネロン、麻薬ビジネス、果ては人身売買など、衝撃の真実が綴られるSPA!連載中の『ネコノミクス宣言』。3月5日(火)に、相方を務める西原理恵子氏によるカラー漫画を掲載した“完全版”が発売されている。これを記念して、本書に収録されているエピソードを特別公開。今回日本に戻りつつある? 覚せい剤ブームについてだ。
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ホテル暮らしをやめて代官山に引っ越した。そのせいで渋谷に行く機会が増えたのだが、そこでふと気づいたことがある。イラン人のプッシャー(売人)が、渋谷の街に帰ってきていることだ。彼らはセンター街で客を物色し、次々と声をかけている。
覚せい剤にコカイン、マリファナ、LSDと、およそ違法薬物と呼ばれるものならなんでも扱う。私は彼らの姿を見て、なんとも言えない既視感を感じた。
偽造されたテレホンカードを売るイラン人が上野公園に現れたのは、バブルがはじけてまだ間もない’92年頃のことだ。やがて、彼らは覚せい剤やマリファナなども売るようになり、イラン人の犯罪ネットワークは全国へと広がっていった。彼らが最も稼いだ場所が、’90年代後半から’07年にかけての渋谷だったのだ。
渋谷に進出したイラン人は、そこに集まる若者やクスリ目当てでやってくる薬物中毒者に、片っ端からクスリを売った。日本の若者や主婦に覚せい剤が蔓延したのは、イラン人プッシャーが原因だと言っていい。
やがて、覚せい剤の利権を巡るイラン人同士のトラブルが頻発。急増する薬物事犯に業を煮やした当局は’07年に一斉摘発に乗り出した。
こうして、渋谷のイラン人プッシャーは消えていったのである。
だが、彼らが本国へ帰ったわけではない。イラン人のプッシャーは、その後も地方へ進出し、違法薬物をせっせと売って稼いでいたのだ。
東京以外で彼らが最も稼いだ都市は、間違いなく名古屋だろう。日本のGDPの約7%を占める愛知県の中心。230万人の大都市、名古屋。
この地で長い間、イラン人プッシャーはいくつかのグループに分かれ、違法薬物の密売で大きな収益を上げていたのである。
そのイラン人グループの間で’15年に抗争事件があった。この事件で、5人のイラン人によって殺害されたのは、同じくイラン人のミラードという男だ。
報道では薬物の売買を巡るトラブルとされているが、正確には、売上金の送金トラブルが原因である。ミラードは、イラン人が日本で稼いだカネを本国へ送金するのが主な役目だった。
違法な薬物で得た犯罪収益金はもちろん現金で、そのまま銀行間送金は行えない。そこで使われるのが「地下銀行」というオーソドックスな手法である。
イスラム圏には独自の地下銀行システムである「ハワラ」があるのだが、ミラードはそれを利用しなかった。
送金する額が大きすぎて、ハワラでは対応できなかったからだ。地下銀行の場合、日本からイランへの送金であれば、同じ額の相対取引がなくては成立しない。
つまり、1億円を送金したければイランから日本へ1億円の送金をしたい人を探さなくてはならないのだ。
この地下銀行の手法は、覚せい剤の取引にも使われる。覚せい剤を売る側は現金確認役の人間を、買う側は覚せい剤の確認役を、それぞれ相手側へ派遣する。
双方で間違いのないことが確認されれば、現金と覚せい剤が同時に違う場所で引き渡されるという仕組みである。
イラン人が日本で売る覚せい剤の大半は北朝鮮製のものだ。北朝鮮にとって、イランはミサイル開発のスポンサーでもあり、武器や覚せい剤の良いお客なのである。
送金のトラブルから殺害されたイラン人のミラードだが、彼は年間20億円以上を日本から送金していたらしい。
たった一人のイラン人がこれほどの額を送金していたのだから、彼らが日本で稼ぐ犯罪収益は相当な金額になるのだろう。
渋谷の街に再び現れたイラン人の売人たち。彼らの出現は薬物の氾濫を示唆しているのである。
覚せい剤の路上売り子復活に見る“ブーム再燃”の懸念
年間20億円以上を送金していたイラン人が殺害された
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