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『ネコノミクス宣言 完全版』発売記念 猫組長が語る“指詰めの起源は源頼朝説”とは?

 元経済ヤクザ・猫組長氏による国際金融、マネロン、麻薬ビジネス、果ては人身売買など、衝撃の真実が綴られるSPA!連載中の『ネコノミクス宣言』。3月5日(火曜)に、相方を務める西原理恵子氏によるカラー漫画を掲載した“完全版”が発売された。これを記念して、本書に収録されているエピソードを公開。今回は極道のケジメのつけかた、“指詰め”に関する話だ。  * * *

源頼朝が起源? 指詰めの意義と対価と礼儀作法

「顔を洗うのが、難しいんや」  番町のオジキは毎朝同じことを言っていた。番町というのは、神戸市長田区にある町の名前で、一番町から六番町まである。  この町は兵庫県で最もガラの悪い地域といわれ、伝説のアウトローを多数輩出してきた。暴力団事務所も多く、子供から大人までガラの悪さを誇りに思っているような町である。  番町のオジキは、そんな番町の中でも最強と恐れられる三番町の出身だ。ニューヨークならサウスブロンクスといったところか。  番町のオジキには、両手合わせて指が5本しかない。ヤクザ人生35年、うち懲役生活が15年だから、4年に1本というオリンピックのような周期で指を詰めてきたことになる。このペースなら、あと20年でオジキはドラえもんになる計算だ。  だが、現実的に親指と人さし指を詰めることはない。だから、番町のオジキに残された、詰められる指は残り1本ということだ。  両手に10本あるはずの指が5本しかないと、水をすくうのが難しく顔を洗うのが大変で、毎朝苦労するらしい。コンビニなどで釣り銭を受け取るのも難儀だとこぼしていた。指が無い人あるあるだ。  指詰めについて記された最も古い文献は、鎌倉幕府によって編纂された『吾妻鏡』である。吾妻鏡の元暦元年(1184年)6月17日条に、駿河国の武士で源頼朝の家臣・鮫島宗家が、一条忠頼討伐の際に同士討ちをして、その制裁に右手小指を切断したとある。  指詰めは、刀を握る力を削ぐことになり、それが反省と従順を示すもので、ヤクザの落とし前となった、という説はここに由来しているのだろう。

誰のためにでも、どんな理由でも指を詰めた

 実際に指を詰めるには、指の根元を輪ゴムでしっかりと縛り、20分ほど放置する。すると、指先は白くなり痺れて感覚がなくなる。そして、手のひらを上にしてまな板に載せ、刃幅の広いノミを切断箇所に当てる。  まな板は木製で厚みのある物が、ノミの刃を跳ね返さずに吸収してうまくいく。これでノミの柄を木槌で叩いてもらえば、ポンッと指先が飛び、完了である。  指を詰めた瞬間に痛みは無いが、病院で処置が終わり、麻酔が切れた頃にジワジワくる。それから数週間は、寝返りするだけでも痛みで目が覚める毎日だ。  詰めた指は、白い布か懐紙に包んで、落とし前の相手に差し出す。受け取った相手は、指と引き換えに「香典」として見舞いを渡すのが作法だ。そして、指は各地の神社や寺にある「指塚」に納められ供養される。  神戸なら湊川神社の指塚が有名で、さすが本場と思わせる指揃えだ。番町のオジキは、自分の指を詰める機会をいつも探していた。金になるなら、誰のためにでも、どんな理由でも指を詰めた。  誰かが賭場で大借金を作ったと聞けば、喜び勇んで指を詰めに行った。借金を作った者の代わりに指を詰め、その代償にいくらか受け取るのだ。ヤクザは借金の清算に指を詰められることを嫌う。今時、指を詰めて持ってこられても困るからだ。  番町のオジキも、そこはよく分かっているので、まず揉め事にする。借金主に代わって取り立ての電話を受け相手をわざと怒らせる。  ある時は、借金の保証をして知らん顔、怒り狂う相手と故意に遭遇するように仕組み、その場で揉める。  番町のオジキ曰く「人前で恥をかかせた」ことになるらしい。これで指を詰め、逆に高額な見舞いをせしめるのが手口だ。そんな番町のオジキだが、堅気になって田舎へ帰る若者のために、1円にもならない指を詰めた。それが一昨年、5本目の指だった。これを機に番町のオジキも引退、堅気になった。ヤクザの限界である4本指には、ならずに済んだ。

猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言 完全版

第1話~100話まで、カラー漫画もすべて掲載した『完全版』として再登場


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