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自衛隊員は「タダ飯」が食える職業という誤解

自衛隊ではなぜ食事が出るのか?

自衛隊

陸上自衛隊Facebookより

 軍隊では軍人に食事を出すのが当たり前です。「腹が減っては戦ができぬ」からです。軍は栄養管理を徹底し、兵士の健康管理にも責任を持ちます。また、軍では軍人が食料を調達し自分たちで調理し兵士に提供します。自己完結した食料調達であれば、徹底管理ができ、食中毒や感染症に注意できます。  自衛隊も長年、自衛隊員が調理してきました。たとえば陸自では栄養士が献立や調理計画をつくったものを、「糧食勤務員」が交代で調理していました。しかし近年、自衛隊員の募集は低調で、今後も自衛隊員は減る一方だと考えられています。仕事に見合った賃金を出さなきゃリクルートはできませんから、民間雇用が好調な今、自衛隊への入隊希望者は少なく、逆に自衛隊から民間企業への流出が止まりません。  そうなると、年間の勤務時間は決まっているが、隊員の増員は不可能という前提で考えるしかありません。部外委託できる業務は委託する考えで自衛隊内改革を推進することになりました。隊員食堂の調理、食器の洗浄、食堂の清掃について、陸上自衛隊の基地内の食堂業務がほとんど民間業者への委託となりました。食品が安全かどうかは検食をしてチェックしていますが、外部委託では様々なリスクが増えるはずです。それでも、現員から食堂業務をなくし、重要な職務に専念させる対処に踏み切ったわけです。  さて、ここで大誤算がありました。食堂業務委託後は、隊員が交代で調理員となり、調理訓練ができる流れが消えます。そこでわざわざ時間を割いて、調理実習訓練をしなければならなくなりました。本末転倒で笑えない話です。

後方支援(ロジスティクス)を軽視しすぎていないか?

 自衛隊は我が国で唯一、外国の軍事組織から国民を護るための武力行使ができる組織です。「戦闘する」ためにはたくさんの「戦闘以外」のことが必要です。戦闘には準備が必要です。武器をそろえたり、基地を構築したり、負傷を治療したり、物資を輸送したり、糧食を作ったり、敵の情報をあつめたり、作戦を立てたりする必要があります。これを後方支援(ロジスティクス)といいます。最適なロジスティクスを選択することはとても重要です。  たとえば、戦闘時に隊員の食料を確保するために、近隣から食料調達を考え、手際よく分業して調理する能力が必要不可欠です。戦闘時は既存の駐屯地にいるとは限りません。どこにいても必要な食料を調達し、輸送し、隊員たちの食事を賄わなくてはなりません。その調理の経験をコストダウンのために削っていいのでしょうか?  たかだか「飯」の話ですが、旧日本軍がガダルカナルで大変なご苦労をしたのは、まさに「飯」や「医薬品」不足も大きな要因でした。あの厳しい敗戦から兵站をおろそかにすると勝てないことを学んでいないようです。将来のために常勤の新入隊員数を増やすべきです。コストダウン至上主義では国を護れません。近隣国の脅威が高まる中でも防衛予算を抑えることばかり考える我が国の姿勢はいかがなものなのかと思います。イザという時に本気で国民を守る準備をしようという気概は一切感じられません。国防予算は「安上がり第一」をモットーに考えるものじゃないはずなんですけどねー。 「腹が減っては戦ができぬ」って言葉を噛みしめてもらいたいものです。
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

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