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川崎殺傷事件の悲劇。不審者情報を集めるより大切だと思うこと/鴻上尚史

病院

病むことは特別なことではない

 じゃあ、どうすればいいのかというと、ここからは、僕は門外漢なので、あまりちゃんと言えないんだけど、「不審者情報の収集や共有」に公的機関がエネルギーを注ぐのではなく、「精神を病んだり、障害を持っている人達に対しての支援」を充実することが一番、大切なんじゃないかと思うのです。  僕は、今、某連載で『ほがらか人生相談』というのをやっているのですが、そこに、「妹があきらかに鬱病と思われるのに、両親は、精神科の病院に通ったら世間体が悪くなるという理由で、ずっと家に閉じ込めている」という状態を嘆く兄からの相談がありました。  日本では、未だに、精神科の病院に通うことや、身内を通わせること、行政の公的支援を受けることをためらう風潮があります。  精神を病むことは特別なことではありません。それは、病気です。病気になれば、病院に行くものです。

未だにある「精神科に行く」ことへの抵抗感

 鬱病は、「精神の骨折」だという言い方があって、骨折を病院に行かないで直すのは変です。でも、特に田舎では、病院に行くことが変だと思われているのです。未だにです。『ほがらか人生相談』では、38歳の兄に、35歳の妹を、すぐに病院に連れて行った方がいいとアドバイスしました。  なぜなら、そのままの状態では回復は期待できないからです。鬱状態になった妹に、両親は否定的な言葉をかけることはあっても、受け入れたり、肯定的な発言をしていません。  そのまま、30年ほどたてば、両親は死にます。そして、状態がもっと悪化した妹が兄に残されるのです。 「病院に連れていくのなら、他県の病院に行け」と世間体を気にする親は30年後には死んでいるのです。自分の発言の責任を取ることもなく。  ツイッターで「病院へ」と書いたら、「3分話して、すぐに薬というクリニックばかり」という否定的なツイートがありました。そういうお医者さんもいるでしょう。でも、ちゃんと話を聞いてくれる人もいます。  すぐに薬になるのは、医者の性格というより、圧倒的な医者不足と超過勤務の結果です。  公的機関が出すべき通達は、「家族の精神が病んでいたら、ぜひ、積極的に行政に相談を」ということだし、国家が取り組むのは、これからの精神科治療の充分な環境作りだと思うのです。
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