無人運転の車内で凶行が起きたらどうすればいいのか。鉄道ジャーナリストが指摘する安全の落とし穴
10月末に京王線で18人が重軽傷を負う事件が発生。その際、運転手がその場での停車ではなく次の駅まで走行したことや、車掌がドアを開けなかったことが議論を呼んでいるが、同じような事件が無人運転の電車で発生したらいったいどうなってしまうのか。
京王線の事件以降も模倣した犯罪が起きるなど、「電車と安全」について大きな注目が集まっている。そこで無人運転で運行している「日暮里・舎人ライナー」の担当者と、鉄道ジャーナリストの渡部史絵氏に話を聞いた。
京王線の事件を皮切りに連続して起こっている電車内での事件を、どのように見ているのだろうか。鉄道ジャーナリストの渡部史絵氏は「安全装置の存在が一般の方に広く周知されていない」ということだという。
「安全装置は、国土交通省が各車両に必ず備えるよう規定しているもので、『SOSボタン』といわれる、非常通報装置や手動で扉を開くことができる「非常用ドアコック」などがそれに当たります。これらが、せっかく設置されているのに有効に使われなかったように感じましたね。その影響で、事件発生後の連絡がきちんとできなかったと思います」
こうした設備や装置があるにもかかわらず、周知が広まっていないことは、乗客にとっても不利益に他ならない。その点について、渡部氏はこう指摘する。
「鉄道会社が一般向けのリリースを積極的に行っていないからではないかと思います。非常設備の存在が一般に知られると、イタズラをされる懸念があるのも一因ですね。
ですが、こうした事件が続いているので、今後はしっかり周知を広めることが重要だと思いますし、私も鉄道ジャーナリストとして事件が発生するより前にもっと書いたり話したりすべきだったなと反省しています」
今回の京王線の事件では運転士や車掌の判断が議論を呼んだのだが、乗務員の判断というのは重要なファクターではないのだろうか。その点については渡部氏は現場の職域の問題で、運転士や車掌の立場をこう説明する。
「現状は重要ですね。しかし、運転士や車掌は『電車を運行する』ことが役目であって『保安要員』ではないので、そこまで求めるのは酷だなと感じています。ただし緊急時には乗務員は保安要員ともなりえますので難しいところです」
では、運転士などの乗務員を乗せずに無人運転をしている「新交通」と呼ばれる路線では、今回乗務員が判断したことを、乗客が行わなくてはいけなくなる可能性はあるのだろうか。
「現実の状況はケースバイケースだと思いますが、無人運転を行っている鉄道会社では乗客に判断させる想定にはなっていないはずです」
乗客に状況を判断させることは想定されていない……。ならば、安全装置などの周知については、徹底される必要があるのではなかろうか。
鉄道ジャーナリストが見る一連の車内事件
運転士や車掌は「保安要員」ではない
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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