娘といたら誘拐と通報された劔樹人さん「育児パパは見た目で損するか?」を当人に聞いた
娘と一緒に新幹線に乗っていたミュージシャン兼漫画家・劔樹人(つるぎ・みきと)さんが、誘拐だと勘違いされた“事件”が大きな波紋を広げている。8月18日に劔さんがツイッターで公表した。
発端は新幹線の車内で劔さんの娘がぐずり始めたことだった。現在、2歳半でイヤイヤ期まっ盛りであることから、「これは大変なことになるぞ」と他の乗客への迷惑を考慮して劒さんは娘とともにデッキに移動。長野から乗った新幹線はUターンラッシュの時期でデッキも混雑していたが、ひたすらあやすことに専念した。
だが嫌な予感は的中し、娘の泣き声は大きくなるばかり。一体どうしたものかと途方に暮れていると、突如、上野駅で警察官3~4人に取り囲まれたという。
「すいません。泣いている女の子を連れているという男性はあなたですか? 誘拐事件の可能性と通報があったもので……」
よもや自分がそんなかたちで疑われるとは! 自身の身分証や子供の保険証を見せ、なんとか最終的には警察に実の親子だと納得してもらったものの、その間も新幹線は駅で停止した状態。
「なあ、なんでこんなことで電車まで停めてるんだよ!! 子どもが泣くなんて当たり前じゃないかよ!」とイラついて警察官に喰ってかかる乗客も現れる始末だった。こうした殺伐とした現場の様子に、劔さんの娘は怯えきった瞳のままギュッとパパを抱きしめてきたという。
この件に関して劔さんの妻であるエッセイストの犬山紙子さんは「子どもを守ることは大人の義務なので、通報自体にはむしろ感謝の気持ち。最悪の事態を避ける方が大切です。しかし、多分私が娘とこのやりとりをやっていてもきっと通報されてないと思うんです。それは男性の育児参加が少なかったり加害者のイメージがあったりするからでは。こういった偏見をなくすためにも男女共に育児をしていくことが大切」と心情を吐露。おそらくそれはその通りであろう。
だが、ネット上では女性側からさらに踏み込んだ意見も出てきた。「すごい厳しい事実言うよ。犬山紙子の旦那、男親バイアスでも、あやしかた云々問題でもないよ。顔なんだよ。いい人なのわかるけど、あのタイプの顔のおっさんが娘と二人でいてめちゃくちゃ嫌がられてるの見たら申し訳ないけど疑ってみるの、これするなって難しいよ」とルックスの問題にまで言及したのだ。完全に大きなお世話である。
私は以前より劔さんに公私ともどもお世話になっている。同じような月齢の娘がいるということもあって、会えば共通の趣味であるハロプロの話をしたり、子育ての悩みを相談したり、子供をハロプロ研修生に入れるかどうか議論する間柄である。そんな私からすると、劔さんは誰に対しても腰が低いナイスガイだ。
福山雅治ばりのイケメンではないかもしれないが、元広島東洋カープの正田耕三さんに似ている人畜無害なビジュアル。少なくても不審人物に疑われるようなことはないと思うのだが……。そう疑問に思ったので本人に電話してみると、「見た目については、実はずっとコンプレックスを抱えていました」と語り始めた。
「たしかに昔は奇抜な恰好をしていたかもしれません。まず単純にお金がなくて服が買えなかったというのがひとつ。それに周りから“泥人形”とか“貧乏神”とか言われることが多く、ナメられたくないと思って眉毛を剃ったりしましたから。
当然それは完全に裏目に出ましたけど、そんなこともあって職質はよく受けるんです。夜に自転車なんて乗っていると、しょっちゅうですよ。もちろん小市民の僕は、自転車泥棒なんてやったこともないですが」
ちなみに劔さんは普段から赤いシャツを好んで着る傾向がある。京アニの放火犯が事件前日から赤いシャツを着ていると知ったとき、「これも怪しまれる原因だったか……」と力なくうなだれたという。
「でも、人を見た目で判断するというのは致し方ない部分もありますよ。職質にしたって、警官はやみくもに声をかけているわけではない。それまでの職業的な経験値から、“髪が長い”とか“シャツが赤い”とか要注意人物の特徴を掴んでいるわけでしょ。かといって、僕の貧相な見た目を変えることは不可能なのですが」(劔さん)
あくまでも温厚な性格の劔さんは「通報した人を責める気にはなれない。その人だって、大きな事故に繋がったら大変と考えたわけだから」と納得した様子で語る。それにしたって極めて露骨なビジュアル差別ではないか。これが男女逆の状況だったら、大糾弾大会になるのは想像に難くない。劔さんも本当に怒りは湧かないのだろうか? 誘拐犯だと決めつけた乗客に対して。新幹線に乗り込んできた警察に対して。クソリプを送ってきた女性に対して……。
「見た目からして、いかにも危ない感じの人っているじゃないですか。この前のあおり運転の加害者とか、ボクシングの山根会長とか。僕が一番怖いと思うのは、善良な市民に見せかけた大悪党なんです。でも今は経済ヤクザや半グレに代表されるように、一見しただけではわかりづらいパターンが多いですから。見た目で判断できない悪に対して、社会はどう対処していくべきなのか? 警察やクソリプに対して怒りはないけど、その疑問は残りましたね」(劔さん)
この問題は「社会の男親育児に対する考え方」「ジェンダー論」「公共論」「幼児虐待と通報の是非」などいろんな角度から切り取ることができるが、今回は「男親の見た目」という点にフォーカスして検証してみたい。男性育児に対する、より差別的な側面が浮き彫りになってくるはずだ。
父親が娘を連れていて、誘拐犯と通報される
見た目にはずっとコンプレックスを…
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出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』 育児・家事、夫婦ゲンカ、不妊治療、セックスレス 、不倫etc. “壁”を乗り越えた巷の夫婦を徹底取材して見えてきた【夫婦円満のための100のヒントを収録!】 |
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